木曜日。午後の3コマ連続授業を終えたあと、池袋へ。ジュンク堂4階のカフェで、フランス文学者の工藤庸子さん、ブックデザイナーの鈴木一誌さんとの鼎談。
いま岩波ホールで上映されているジャック・リヴェット監督の『ランジェ公爵夫人』。
バルザックによるその原作を工藤さんがあまりにも華麗な筆致で訳した『ランジェ公爵夫人』。
そして工藤さんご自身の着想と戦意にみちたすばらしい評論集『砂漠論』。
この三作品を主題として、ぼくが進行係を務めた。
カフェは満席で、聴衆のみなさんの反応も最高で、楽しい90分をすごすことができた。かけつけてくれた友人たちにも感謝。
『砂漠論』の装幀をなさったのが鈴木さん。それがまた、すごい。日本のブックデザインの水準の高さ、工夫と美しさの極みを、よく見せてくれる。
お二人の共通点は、誰よりも繊細でありながら誰よりも大胆な選択をする、ということにあると思う。繊細とは、要するに、あらゆる差異が見えてしまい、その数多のヴァリエーションの中で、表現において「断定」することを回避しないということ。
文学と歴史の読み手としての工藤さんからは非常に多くを教わってきたが、一方の鈴木さんの硬質でパワフルな批評文にも、つねに戦慄を覚えてきた。その印象からこの上なくシャープでコワい人を想像していたのだが、今回はじめてお目にかかった、現実の鈴木さんの、温かさとこまやかさに感動。
たとえば、鈴木さんはこう書く。「どんなに断定口調にみちた文章でも、文章には問いかけの構造が潜んでいる」(『重力のデザイン』47ページ)。そうそうそうそうなんだ! とぼくは机を叩く。このひとことだけで、何か救われた気持ちになる。
帰りは電車が止まっていて、帰宅は午前1時。でもそんな疲労がなんでもない、充実の一夜だった。