映画『あたらしい野生の地 リワイルディング』についての、田口ランディさんのコメントです。
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もしかしたら、これは奇跡なのかもしれない。人間が放ったらかしにした干拓地、しかもオランダの首都アムステルダムから五十キロのところに、わずか四十五年で、野生の王国が出現したのだもの。
奇跡というのは、めったに起きないことが「起こる」こと。つまり、まぎれもない現実ってことだ。捨てられた土地で新しい生命の可能性が示された。それは人間の想像を超えた想定外のことだった。考えてみよう「捨てる」ことの積極的な意味を。認識を変えたとたん、それは新しい思想になる。「リワイルディング・再野生化」はこれからの思想、何が始まるのかは未知数だ。地雷に埋め尽くされて踏み込むことのできないカンボジアのジャングルが、蝶の楽園となるかもしれない。二十世紀の愚行で人間が捨てた土地、見放した土地、それらの土地に再び野生が戻るのだとしたら、それは、母なる大地ガイアの、慈しみと許しに思える。
起きた現実をありのままに見てください。この奇跡の土地で生きている動物たち、特に人間によって実験的に放たれた馬・コニックたちが自力で大地に適応し、闊歩する姿の美しさを。彼らの不屈の忍耐と強さによって、いかに生と死を越えた生態系が結び合わされているかを。
疑り深い人たちのために、この映画はただ「真実」のみを撮っている。
リワイルディングを実感したら、心はもうわくわくしてくる。
できる限り「なにもしない」。私たちにはまだ、その道が残っていたんだ。
田口ランディ(作家)