新聞からの話題、ふたつ。
「朝日」の土曜日のBeにおもしろい写真があった。谷川岳の山開き。これから登山しようとする人たちが数人かたまっている。そばには達筆な毛筆で、以下の文字。「登山の方に鳩を貸します 無料 但し箱代 三十円 財団法人日本鳩通信協会」。
遭難した場合の連絡のために、鳩を持って登山する! これは1958年の写真だという。思ってもみなかった話で、非常に興味深い。朝日新聞社では、1966年まで鳩を通信用に飼育していたのだそうだ。ぼくの子供時代も、まだ年上のいとこたちが鳩を飼っていた。はたして通信に成功したのかどうかは、知らないけれど。
もうひとつは日曜の「読売」。「日本の知力」という連載記事によると、ハーバード大学では親の年収が6万ドル未満だと学費が免除されるのだという。同大学の学費は、年間およそ5万ドル、大部分の家庭に、払える額ではない。でもたぶん大学院レベルではほとんど全員になんらかのかたちの奨学金や授業料免除が出るはずで、そのへんのシステムは日本ではぜんぜんありえない作り方。
先日、スタンフォード大学の博士課程に入るという知人が、下見に招待されて行ってきた。優秀な大学院生はいくつもの学校から入学許可をもらうことが多いので、その先は大学同士による取り合いになる。それで各大学は旅費・宿泊費つきで入学候補者をキャンパスの下見に招待する。さあ、見てくれ、選んでくれ、ということだろう。これは知っていたが、太平洋をわたる旅費まで出してくれるとは、さすがに驚いた。
日本の大学にとって、緊急課題のひとつは奨学金制度の整備。特に大学院生、留学生に対する授業料全額免除や、TA、RAなどによる給与支払を確立しなければ、どんなにやる気と能力があってもとても通えない人は多いと思う。すると困ったことに、大学という制度自体がどんどん階級再生産の場となって、社会そのものについても考えずにすませる部分が肥大してゆく。
大学院生のみんなが、バイトで忙しいのはよくわかる。疲れて勉強する時間もなくなるだろう。それでは本末転倒だが、逃れがたいことでもある。いろいろ工夫していきたいが、どう進めればいいのやら。
まずは小刻みに、あらゆる機会をとらえて、発想の種となるような知識を身につけてほしい。役に立たない知識、ムダになり失われるものなんて、何もない。20代前半のあいだに、思い切り、むりやりにでも、思考の地平をひろげておいてほしい。