ホノルルで開催中のAAS(Association for Asian Studies)で、リービ英雄さんの作品をめぐるパネルに参加しました。発表のタイトルと発表者は以下のとおりです。
Crossing the Pacific: Asia and America in the Work of Ian Hideo Levy
-Faye Kleeman "Exophony and the Locations of Identity in Levy Hideo's Fiction"
-Christopher Scott "Memoir of a Gaijin: Whiteness and White Privilege in Ian Hideo Levy's Fiction"
-Keijiro Suga "Transversal, Translingual: Levy Hideo's Pursuit"
それぞれ20分のこの3人の発表につづいてリービ英雄さんご自身がコメントを返し、それから「座談会」的に自由な発言、さらに聴衆との質疑応答というかたちで、あっというまの2時間でした。
ぼくはトラヴェル・ライティング(旅の記述)としてのリービ作品を論じましたが、時間が限られているので発表としては『ヘンリーたけしレウィツキーの夏の紀行』(2002年)の分析について話しました。すばらしい、すばらしい傑作です。
日本語作家としての「リービ英雄」が学会のパネルのテーマとしてとりあげられるのはこれが初めて。かつて若くしてアメリカのもっとも優秀なジャパノロジスト(日本研究者)のひとりだったリービさんにとっては、20年ぶりのAASへの「帰郷」だったそうですが、さすがに気さくで真摯で気骨のある人柄そのままに、われわれの発言に対するコメントからはじまって、つづく議論もたいへんに充実したものになりました。
この機会に彼の著作のかなりの部分を再読して、その精神の大きさと探求の苛烈さに強く打たれました。まったく誰も到達したことがない場所から、日本語と日本を見ています。そして中国を、そして台湾を、そしてアメリカを。まちがいなく、現在日本語で書いているもっとも重要な作家のひとりです。
そのリービさんが近刊『我的日本語』の中で、こんな風に書いています。「二十一世紀、ぼくはこの紀行文学が重要なジャンルになりつつあると思う。」日本語をめぐる精神の自伝ともいえるこの本を、彼自身による紀行文学の実践である『我的中国』と合わせて、学生のみんなにまず勧めておきます。
彼の作品に対する国際的な評価も、ようやく高まってきました。今年はアメリカのみならず、台湾、中国、フランス、ドイツで翻訳が出るとか。今回のパネルを組織したクリス・スコットが、夏に刊行される『星条旗が聞こえない部屋』の英訳者です。