Tuesday 30 November 2010

「樹木」展の作品

どんな作品を出すか、悩みに悩んでいたのですが、昨夜ふと思いついて今朝早朝の光の中で撮影しました。組写真です。けっこうおもしろいと思います。ご期待ください!

学生のみんなも、まだがんばってるはず。ぼくはまだご挨拶ほかのテクストを書く必要あり。今週は苦しいけれど、明後日からの設営が楽しみです。4日(土)に設営を終えて、5日(日)から展示開始です。

Monday 29 November 2010

と思っていたら

ローラン・グラッソの『日蝕』、作られた映像だそうです。

http://listart.mit.edu/node/177

ガッカリとアッパレの中間だね、これは。教訓。映像は絶対に信じてはいけない。わかっていたことではあるけれど。人はことほどさように自然主義。

知己も正鵠も「得る」ことはできない

学生たちの作文を直すといっても、大部分は言葉遣いがへんなのを直すだけ。そしてその目で見ると、プロの物書きでもずいぶんまちがった言い方がまかり通っているのには日々驚かされる。

「すべからく」と来たら「べし」で受けなくてはならないことは漢文を少しでも学んだ者には明らかなことだが、あいかわらず「すべからく」を「すべて」という意味だと思い込んでいる人は多い。

もっと笑えるのが「知り合う」という意味で「知己を得る」と書いてしまう人。得るのは「知遇」でしょう。知己とは己を知る、すなわちそこに至るにはそれなりの友情の歴史が必要。また「正鵠」と来たら、これも「得る」では意味がいかにも舌足らずになります。当然、「射る」でしょう。相手は鳥なんだから。

「私淑する」もまちがって使われることが多い。実際に授業に出たりしていたら私淑ではない。これは直接の面識なく、遠くからヒソカに師と仰ぐことをさす。こうした誤用は、大学教員にも結構見られます。

でもほんとに大笑いさせられるのは、対応物を欠いた、完璧に死んだ言い回し。たとえば「思い出は走馬灯のごとく」などというけれど、その「走馬灯」を見たこともない人がつぶやくのはいかにもやりすぎでしょう。あるいは「教鞭をとる」といっても、そもそも「教鞭」て何? 今日でも使っている人、どこかにいますか? 

こうしたことをすべて排して、できるだけ素直な言葉であくまでも現実に即して書くのが原則。よく知らない言葉は使わないこと。可能なかぎり、誰もが知っている素朴で単純な言葉だけで文章を書くことを心がけたいものです。

でも「素朴」って、「単純」って何? それはまた次回の話題とします。

Laurent Grasso (1972-)

今回の旅行で見た作品でいちばん気に入ったのは、ローラン・グラッソのビデオ作品「Eclipse」。何もない氷原(?)の日没直前、皆既日蝕の全体を収めた映像。これはすごい。あまりに完璧な十分間。そしてそこに、作為はまるでない。

音楽も十分に控えめで、ああ、すごかった。ぜひ学生のみんなに見せてあげたいけれど、そのためにはどうすればいいのかが、わかりません。

それにしても日蝕。わざわざそれを見るために出かけてゆくということがイヤなので絶対に行かないと思うけれど、やはり無比の強烈さをもった体験なのでしょう。

12月12日、ジュンク堂新宿

12月12日、それは小津安二郎先生誕生日(にしてご命日)、そしてフローベール先生誕生日。それとはまったく独立に、この日、石川直樹さんの新しい写真集『Corona』の刊行を記念して、ジュンク堂新宿店で対談をします。

タイトルは「見えない大陸への10年間の旅」。詳細はジュンク堂ホームページから。ぜひどうぞ!

染井吉野讚

さくらはそんなに好きじゃない、花としては。ましてやさくらの中でも、もっともポピュラーなソメイヨシノは。

と春には思って冷淡な気持ちでいるけれど、東京ならまさにいま、色づいて落ちてゆく葉をおびただしく用意したソメイヨシノの美しさには、陶然とします。

桜並木を歩いて、落ちた葉っぱを見てごらん。黄色と赤のあらゆる色合いが入り交じって。枯れて。酸化して。恐るべき美しさ。

これからすべての葉っぱが落ちて、4ヶ月後にはまたあの白い花の狂気が。乱舞が。なんという気前のよさ。ありがとう、ソメイヨシノ。秋の落葉から教訓を読み取る必要はないけれど、この完璧な色合いを記憶に留めないのはあまりにもったいないことです。

スフィヤン

最近ずっとくりかえし聴いているのはスフィヤン・スティーヴンスが10月に出した新作The Age of Adzです。

これが、すばらしい。偉大さが横溢している。われわれの心はポップ・ミュージックによって作られた心だから、この知覚・知的レベルで一生やっていくしかないけれど、ポップ・ミュージック以外に人の心をまるごと捉えられるジャンルはないだろうとも思う。

だまされたと思って聴いてみてください。でも、だました、という結果になっても怒っちゃだめだよ。

ジャケットに使われている、ルイジアナの統合失調症の黒人アマチュア画家ロイヤル・ロバートソンの絵が、また強烈な磁力をもっている。

フランスからドイツまで

ああ疲れた。それもそのはず、フランスからドイツまで歩いてきました。

といっても歩いたのはストラスブールからケールまで。トラム(路面電車)D線の終点アリスティッド・ブリヤンから、わずか2キロ半ほどの道のりでした。

それでも国境のライン川を渡るのはすばらしい気分。さすがの水量、さすがの冷たい風。強烈な強風。みぞれ混じりのお天気雨に打たれながら河の中央に立つと、うれしくて笑いがこみあげてきます。

ケールは街があまりにきれいでびっくり。ラテン系の国には絶対にない清潔感でした。

こうして初めてのドイツに。それにしても驚くのは14世紀にはすでにこの場所に橋がかけられていたということ。この川幅で? いったいどうやってたのかな。浮き橋だったんだろうか。

フランス話はいろいろありますが、また少しずつ。今週はいよいよわれわれのギャラリー展示「樹木 木と人の心」の設営です。

Wednesday 17 November 2010

比嘉慂『マブイ』

知らないことって永遠にめちゃくちゃに多いけれど、この漫画家の名前をぜんぜん知らなかったのはどういうことだろう。比嘉慂(すすむ)の『マブイ』(青林工藝舎)は沖縄に関心をもつすべての人、必読だ。

以下、オビ裏面から引用。

「『医者半分、ユタ半分』って言って、医者にも診てもらうけど、ユタのところにも行くんです。ユタに見てもらうことで気持ちの整理をするんですよね。ユタは皆さんすさまじく辛い経験をしてますよ。そういう経験をしてきたユタたちが、辛い人たちの悩みを受け止めるということですね。」

軍用地主、黙認耕作地のおじさんおばさん、島の駐在さん、軍雇用員、引退した米兵。かれらそれぞれの経験を魂の経験として捉え直すことが、たとえどんな即効性につながらなくても、必要だと思えてきた。

Tuesday 16 November 2010

「樹木」展、近づく!

12月のギャラリー展示が近づいてきました。といっても、準備はまだまだこれからが勝負です。概要は以下のとおり。ぜひ見に来てください。

昨年のWALKING展は歴史を作りました。今年は、ヒトの歴史の創成以前にまでさかのぼりたいもの。現在オーストラリアで制作中の佐々木愛さんが、昨年に続いて今年も参加してくださいます。

さあ、どんなものができるか。開幕が楽しみになってきました。

「樹木 木と人の心」 ゲストアーティスト:佐々木愛

すべての樹木は宇宙樹。人を生み、その心を育てた。
樹木と人間の関わりを全面的に考え直してみよう。
写真、映像、絵画、詩、オブジェ、音響などの作品展です。
主題に関連した約200冊の図書もそろえました。

■会期  2010年12月5日(日)〜2011年1月10日(月)※12月28日(火)〜1月4日(火)は休館。
■時間  [平日・12月23日(木)] 9:00〜19:00 [土] 9:00〜18:30 [日・祝] 10:00〜16:30
[12月25日(土)〜12月27日(月)、1月5日(水)〜1月7日(金)] 10:00〜16:30
■会場  明治大学生田図書館Gallery ZERO
〒214-8571 川崎市多摩区東三田 1-1-1 TEL 044-934-7945
※一般の方は図書館入口ゲート横の呼出ボタンにて係の者をお呼び下さい。
※お車でのご来校はご遠慮下さい。
■主催  明治大学大学院理工学研究科ディジタルコンテンツ系管啓次郎研究室
■お問い合わせ  jyumoku2010@gmail.com(「樹木 木と人の心」展実行委員会)
■関連イベント 音楽家Ayuoによる特別講義「蛇と樹 音楽の歴史的・神話的起源」
・日時  12月23日(木・祝)15:30〜17:30
・会場  明治大学生田キャンパス中央校舎6Fメディアホール
・予約不要、入場無料

Sunday 14 November 2010

石川直樹の世界へ

いよいよ今週土曜日(20日)、リバティアカデミーのオープン講座に冒険家・写真家の石川直樹さんをお迎えします。

http://academy.meiji.jp/ccs/pdf/open/2010fall4.pdf

無料ですが、事前予約が必要。ぜひ申し込んで、ご来場ください。おともだちにもぜひお伝えいただければさいわいです。

Friday 12 November 2010

「読み書きクラブ」第1回

実験的公開セミナー「読み書きクラブ」の第1回会合、木曜日の19時〜21時まで猿楽町校舎で開催した。参加は19名! ほとんど社会人で、こうした場に対する関心の強さを実感した。

まず、大塚、大洞の2名の作文を添削。興味深い。ついで安西ほか3名分の書評を添削。いろいろ具体的でおもしろい論点が出てきた。

課題がこなせない日はあるだろうし、疲れて居眠りしてしまう日もあるだろう。ぜんぜん気にしません。もっとも、目にあまれば、今後相手が社会人でも小学生のように注意します。

なんにせよ、楽しみつつ、自分の作文力を、判断を、次のステージに引き上げよう。みんな、がんばって続けよう!

Thursday 11 November 2010

秘密のプロジェクト

女子美の杉田敦さんとスタッフのみなさん、学生ふたりが、猿楽町校舎を訪問。かれらが進行中のあるプロジェクトに、われわれの学生4名が参加して、ビデオを収録した。

おもしろかった!内容は絶対にいえない。いずれは明らかになることです。「おもしろい」の意味も。でもいい経験でした。杉田さん、ありがとうございました。

組織はつねに相互連結を求めてゆくべきだ。大学院どうしの交流企画は、まだ比較的やりやすいけれど、別の段階にあるグループや個人の相互作用を作り出すことは、なかなかむずかしい。やりすぎても、ムダが多くなるばかりだし。

でも今日みたいな試みは、大歓迎。またいろいろやってゆきたい。とりあえず、最優先事項は来年度のImaginAsia!

Monday 8 November 2010

『冬の小鳥』(Une vie toute neuve)

何もいわないから、ぜひ観にいってください。岩波ホール。何の知識もなく観たほうがいいと思います。ずっとさびしい夢を見ているような気分で観ていて、一瞬の暗転にああ終わるんだなあと思ったあとの最後のシークエンス、最後の最後に断ち切られるショットに、ボロ泣き。ラストでこれだけ泣けた映画は『サマリア』以来でした。お勧めします。

長く熱い秋の午後

東大本郷でのワークショップ、終了。会議室で開催するというのでせいぜい3、40人が集まって、料理中のアイデアを議論する程度かと思っていたら、聴衆は少なく見て120人! 満席でした。しかも発表者の多くが本格的な論文を準備していて、大学院生らしい人たちはノートを準備し、室温がだんだんあがり、酸素が少なくなり、頭は朦朧とし、ああ倒れるという寸前、話がはじまったら興味深くてすっかり引き込まれた。

鈴木雅雄くん(かつて大学院で一緒に勉強した)のアンドレ・ブルトンについての感動的な発表から、最後の塚本昌則さんの簡潔で的確なまとめまで。午後1時半から7時まで。長かったけれど、実り多い午後になりました。

ぼくが参加した第3セッションでは、まずぼくが前座。「写真論」と題した16行詩7編のシリーズを朗読してから、大連、ラパ・ヌイ、パリそれぞれの旅行写真をスライドショーで見ていただき、みなさんをうんざりさせました。「しろうとの旅行写真ほどうんざりさせられるものはない」という第1セッションで出たコメントをみごとに無視してしまいました。でもまあ、一部の人には楽しんでもらえたようでホッとした。

ついで今橋映子さんの報道写真論。カルティエ=ブレッソン神話からはじまり報道写真の徹底的な考古学の必要にいたる、明晰きわまりない論考。それから野崎歓さんは、さすがの余裕でフランス現代作家数人をとりあげ、きわめて具体的に小説の場面を紹介しながら、おもしろいお話をつむいでくれました。名人芸。

以上の3人に対して、特別なゲストである畠山直哉さんがコメントをくれて、これにはさすがに全員がじっと聞き入っていました。アーティストならではの言葉の強さ、鋭さ。写真と文学をめぐってすごされた長い午後が、これでぐっと締まった。

他にも澤田直くんのサルトル論や兼子正勝さんのクロソウスキー論が聞けて、大変に有意義な一日になりましたが、いくつかの課題もぼくには残りました。そのうち何らかのかたちで文章にしてゆければと思います。

世話役だった塚本さん、大変だったでしょう。ありがとうございました!

(参考意見はいつもながら清岡さんに。http://tomo-524.blogspot.com/です。)

Friday 5 November 2010

「20世紀フランス文学と写真」

ワークショップ、いよいよ明日です。

http://www.l.u-tokyo.ac.jp/futsubun/news/2010/10/08/

専門の研究者のみなさんのあいだにひとり野良犬のように迷いこむのも辛いけれど、何かおもしろい手料理を持参できるようにします。

少なくとも畠山直哉ファンのみなさんには欠かせないイベントですね!

Wednesday 3 November 2010

畠山直哉on「詩と写真」

お伝えするのを忘れていました。Art Itに畠山直哉さんのインタビューが全3回で掲載され、その中で9月にやった港くんとぼくの対談のことが触れられています。

http://www.art-it.asia/u/admin_ed_feature/57Fxjr0DLt9yEIWdiBJ2/

詩と写真をめぐる議論は、まだこれから。この土曜日のために、何か考えてゆかなくてはなりません。さて、どうしようかなあ。何か考えがある人は、土曜日に東大本郷のフランス文学科に、ぜひ来てください。

万物は流転する、のだから

青山ブックセンター本店での「本の島」の棚、今月でいったん終わりになるそうです。残念ですが、それもよし! 書店の棚は流動の中にあり、流れからどんな水をすくうかは読者ひとりひとりの運命と判断にあります。

ともあれ、ぼくにとっては、2010年は「本の島」の年として記憶されることでしょう。次の島は、必ずどこかで生まれます。また会おう、そこで、ここで、あそこで、どこで、すべての島で!

(以下、twitter情報を無断で転載)

「ながいこと展開していたブックフェア「本の島」ですが、今月下旬に一旦終了することになりました。見にきてくださった皆様、どうもありがとうございました!20までは開催していますので、ご来店お待ちしております!!(本店t島)  http://p.tl/8FsY


大竹昭子写真展&『図鑑少年』!

大竹昭子さんの写真展が始まりました。

http://katarikoko.blog40.fc2.com/

1980年のニューヨーク。ぼく自身が初めてニューヨークに行ったのは1981年12月で、3週間過ごしました。ぼくが行ったころが、ちょうど(ぼくと同い年の)キース・ハリングをはじめとするグラフィティ・アートやブレイク・ダンスが始まった時期。ヒップホップ文化の創成神話の時期でした。大竹さんのニューヨークに、1年の時間差を見ることができるかどうか、興味津々浦々。絶対に行きます。

ちょうど大竹さんの名著『図鑑少年』が中公文庫に入ったところ。解説は堀江敏幸さん。実年齢とは無関係にわれわれの誰よりも精神年齢の高い堀江さんのみごとな解説で、この本がいっそう引き立ちます。作文の道を志すみなさんには、お手本とすべき本であり、解説です。

で、ぼくが目下興味をもっているのが、単行本(小学館、1999年)とどれだけ写真のさしかえがされているのかということ。あれ? ぼくが好きだったあのつながれた黒犬は姿を消したのかな。でも、代わりに恐るべき白い鳩の群れが登場? まだぱらぱらと見ただけなので、これからよく検討してみます。

大竹さん、おめでとうございます!

Tuesday 2 November 2010

「水牛のように」11月号

毎月ついたちは「水牛」の日。鈍重な水牛であるわれわれが草のよだれを垂らしながら、あちこちから集ってくる日。今月も更新されました。八巻さん、ありがとうございました!

http://www.suigyu.com/sg1011.html

ぼくは「犬狼詩集」17、18を寄稿しています。

Monday 1 November 2010

松浦寿輝「詩の波、詩の岸辺」

「毎日新聞」10月26日夕刊の「詩の波、詩の岸辺」で、松浦寿輝さんがぼくの詩集『Agend'Ars』をとりあげてくださいました。うれしい驚き。

詩集を出すということ自体が一種の冗談としてしか受け取られない文化=社会の中で、自分の拙い詩に賭けられているものを真剣にうけとめてくれる人がいるのは、ほんとうに励まされることです。そんな読者が3人から30人いれば、それだけで詩集を出す意味はあったということになるでしょう。300人いればもっといいけど。3000人になると、たぶんどこかで大きな誤解が。

奇しくも今日(10月31日)はキーツの誕生日。彼は1795年の今日生まれました。もちろん、キーツはこんなばかげた経済学(心的な、知的な、金銭的な)はいっさい考えなかったはず。これからも、少しずつ、16行詩という決まった形式で(つまり小さな面積の画布で)、作品を書いて行きたいと思います。

さあ読もう『ゴッドスター』!

新潮文庫11月の新刊の1冊が古川日出男『ゴッドスター』。東京にあきあきしているすべての人に勧めたい、痛快な中編です。

ぼくは巻末に「これは解説ではない」という短文を寄せています。読んでいるうちに古川さんの文体にどんどん同期していって、その結果がこれ。ぜひごらんください!