"What is the sound of one hand clapping?" (片手で拍手するとどんな音がするか?)という有名な禅の公案がある(原典は知らない)。サリンジャーも作品のエピグラムとして使っている。どう答えるべきかは、どうにもわからない。
だが、ちょっとまえに触れた数学者・砂田先生の業績について、こんなエピソードを聞いて、その公案を思い出した(直接の関係はないのだが)。
先生の主な業績のひとつにこういうものがあるのだと、同僚が教えてくれた。「太鼓の音を聞いて、その音から太鼓の形状を決めることはできない」ということの証明。つまり、波形とか、振動数とかだけでは、どれだけ精密に分析しても、その振動体のかたちをひとつに決定することができない、ということなのだろう。
いったいどう証明するのか、もちろん見当もつかないが、妙に魅力的な話だ。