ひさびさに国立へ。一橋大学でのアフリカ文化研究会を見物に行く。
第1部は大学院博士課程の3人の発表。
まず岩崎明子さんが、三重県のマコンデ美術館にある来館者の感想ノートの分析。これがアフリカだ、本物だ、とさしだされるモノに対して日本人が見せる反応の奇怪さが興味深い。スゴイものをまのあたりにして胸の高まりに耐えきれなくなると、つい意味不明なイラストを描いてしまったり。そもそも、なんで三重県にマコンデ彫刻の専門美術館ができたんだろう? これはいちど行ってみなくちゃ。
つづいて小川さやかさんがタンザニアのスワヒリ語ラップ(+いろんなジャンルの融合)である「ボンゴ・フレーバ」を概説。ボンゴとは「脳みそ」のことらしい。ということは「脳みそ風味」か。ストリート音楽だが、路上商人(マチンガ)たちの意識のキーワードである「ウジャンジャ」がおもしろい。スワヒリ語で「かしこさ、ずるがしこさ、狡猾さ」を意味するのだそうだ。生活感覚、問題解決、いろんな場面でのとっさの判断のバランスのよさ。わからないことをわからないままにしたり、都合をつけあったり、許しあったり。じつは相当な普遍性のある知恵なのではないかと思った。
最後に古川優貴さんの大変におもしろい発表。ケニアの聾学校に住みこんで調査を続けてきた彼女がYouTubeその他から拾ってきた映像を編集した12分の作品をまず見て、それからその背景の解説。歩くこと、人々の動きのシンクロの秘訣としての呼吸、手話とその反転。結論にはむすびつかないが、なんとも興味深い。思考がでこぼこしている感じ。
休憩を挟んで後半は、最高の顔ぶれ。まず、アフリカのストリート音楽の研究で知られる鈴木裕之さんがワールドミュージックの展開をまとめて話してくれて、90年代前半、じつは東京にはすごくいろいろなアフリカのミュージシャンが来ていたことを知る。重要な働きをした組織のひとつがカンバセーション(まえにディジタルコンテンツ学研究会のゲストとして来ていただいた前田圭蔵さんの会社)。ぼくはそのころずっと日本にいなかったので、何の動きも記憶にないのは当然だった。
ついでわれらがレゲエ博士、鈴木慎一郎さんの登場。聞かせてくれた焼津のレゲエ歌手パパユージがおもしろかった。今年、「焼津魚市BASH2007」というイベントがあったそうだ。
http://www.uoichibash.com/
焼津旧港のかまぼこ型の建物の保存を訴えていたのだが、その願いもむなしく、建物はすでに解体されたという。レゲエと「郷土愛」というテーマの存在を教えられた。
それから岡崎彰さん。最近は土日はずっとYouTubeでfield trip(調査旅行)をしているそうで、アフリカ音楽だけでもものすごい数の映像=音がアップされては消えてゆくらしい。そしてひとりのミュージシャンのスタイルの変遷まで、場合によっては追えるそうだ。ディジタル人類学はもはや夢想ではなく実用・実践の段階に入っていて、ふつうなら見られない聞けないものが、ごろごろと畑のじゃがいものように埋もれて転がっていることを再確認。
もちろん、十分じゃない。もちろん、ただのイメージと音でしかない。でもそれが見せてくれるものの意外さとゆたかさは、相当いろんなことを教えてくれる。
とっぷり暮れて、岡崎さんのお話が終わらないうちに失礼したら、外は雨。遠いアフリカ(どこの?)を思いつつ、濡れて帰ったら風邪を引いた。