Sunday, 8 July 2007

早くも七夕

今週は、今週も、あわただしかった。こなさなくてはならない仕事が多かったが、その一方で、充実した時間にも恵まれた。土曜日の夜を迎えて、ほっとしているところ。

まず火曜日(3日)には、ニューヨーク在住の写真家トヨダヒトシさんのスライドショーを、明治大学生田キャンパスのメディアホールで開催。彼の初期作品「ゾウノシッポ」3部作。ひさびさに再見し、無言で展開されてゆく彼のニューヨーク暮らしの細部とその「とりかえしのつかなさ」の感覚に、深く感動。前回は数年前に新宿のphotographers' galleryのごく小さな部屋で見たのだが、上映の場所によりずいぶん印象が違う。またスライドの何枚かは入れ替えられているようだ。

写真家の藤部明子さんや翻訳家でトヨダさんのデビュー前からの友人である北折智子さんなども見にきてくれて、大学のキャンパスとしては異例の、アーティスト濃度の高い空間になった。こうしたイベントは、これからも仕掛けていきたい。

水曜日(4日)にはフランスの作家シルヴィー・ジェルマンさんに会いにゆく。本郷の旅館(なぜか外国人作家の多くが滞在する)に彼女を訪ね、初対面なのに2時間近く話しこんでしまう。哲学博士で、ものすごい教養の持ち主だが、そんなことはぜんぜん顔には書かれていない。ユーモアと、野うさぎのように機敏な精神が感じられる、すばらしい人だった。金曜の対談の打ち合わせをして別れる。

そしていよいよ金曜日(6日)。授業についで大学院の学内選考。それからあわただしく飯田橋の日仏学院にむかう。7時からの対談には60名くらいの聴衆が集まってくれて、まずまず。対談は前半を「旅とエレメンツ」、後半を「『マグヌス』を読む」という構成に。前半では人が旅をして出会わずにはいられない、それぞれの土地の自然の要素について、いくつかのキーワードを投げかけながら自由に話してもらった。太陽について、月について、風について、砂漠について。彼女が子供時代に体験した皆既日食の話が印象的。

後半では『マグヌス』という謎めいた作品について、みなさんからの質問に作家が答えた。アイデンティティの探求といえば話は早いが、この小説は探求すればするほど自分がわからなくなるという、逆のベクトルをもっている。活発な質疑応答で、ジェルマンさんのシャルマント(チャーミング)な性格もよくうかがえる、楽しいひとときだった。

この作品は「高校生ゴンクール賞」(高校生が選ぶ)を受賞しているが、終了後の雑談で「こういう試みは日本ではできないよね」と話していると、訳者の辻由美さんが現地で実際に立ち会った経験から、フランスの高校の先生たちの「やる気」について教えてくださった。ちょうど大学の非常勤講師や都立高校の先生といった友人たちと一緒だったのがよかった。結論は、「学校がつまらないのは100パーセント教師のせい」ということ。いくらでもできること、新しい試みはありうる。そして生徒の全員が興味をもたないことでも、必ず何人かはひっかかってくる子がいるはず。

それだって、創造の一形態なのだ。

そしてきょうは明治大学リバティーアカデミーの連続講座「世界文化の旅・アフリカ編」の第5回。30代のころ、アフリカとブラジルを行ったり来たりして暮らしていた翻訳家の旦敬介さん(明治大学法学部)が、東アフリカの主食ともいえる、トウモロコシの粉を練ってシチューやカレーにつけて食べる料理を、をその場で作りごちそうしてくれた。これには受講生のみなさんもおおよろこび! なんとも楽しいひとときだった。

今回の講座は、何よりも講師のチームにとって大きな刺激になっている。それぞれの貧しい知識をもちよって話し、確認し、まちがいを正し、また新たな視界を得る。

ヒューマニティーズ(人文学)の道は、孤独なものではありえない。それはつねに協同であり、だれもいないところで一人でやっているときでさえ、自分は大きな輪の一環、つねに他の人々の認識と知識がかたわらにある。この道を、これからもしばらくは、真剣に歩んでいきたいものだ。