Monday 18 August 2008

周期的に上昇し下降すること

ふと手に取った本のぱらりと開いたページに次の一節を読んで、すっかり感心してしまった。

「ニーチェのユニークさは、風土に徹底的にこだわるからこそ異郷を選択する、大地を愛するからこそ、移動しつづけるというところにある。身体と環境のあいだの絶妙な平衡が実感されるつど、そこが暫定的な「故郷」となる。彼は特定の質の空気や光を享受しつづけようと欲するがゆえに、地中海岸とアルプスの高原のあいだの標高差1800メートルを周期的に上昇し下降する。彼は風に棲むのだ」(岡村民夫『旅するニーチェ、リゾートの哲学』白水社、60ページ)

鮮やかで、ひきしまった喚起力のある一節だ。

思えば1988年、「ニーチェのテラス」と呼ばれる高台からニースの町を見下ろしていたことがあった。いつかニーチェの足跡を追って旅してみたい、と思っていた。その後ぜんぜんそんな旅を果たせないうちに、これほど充実した本が日本語で書かれていたとは。驚き。そして、うれしいことだ。

いまはおなじ著者の宮澤賢治論、『イーハトーブ温泉学』(みすず書房)を読んでいるところ。8月も残るは2週間。大切にしなくちゃ。