清岡智比古さんと「文庫クセジュ」をめぐる対談をしたのは2010年6月。このとき、クセジュの1冊の『ジプシー』について、こんなことをいってたのをすっかり忘れていた。
「僕はジプシー系の音楽が好きなんです。それで3冊目は『ジプシー』。
ジプシーといえば、北インドに起源のある民族がユーラシア大陸を遠く西の方までいって、 各地に散らばって移動生活を続けているようなイメージで捉えられがちですが、この本によると、 あちらこちらの社会に多様な形で、マージナルな位置におかれた人たちがジプシーと呼ばれていて、 決して民族の話には還元できないということがはっきりと語られています。
面白いと思ったのは、「カロー」という言葉の由来です。 僕はアメリカとメキシコの国境地帯にわりと長く住んでいましたが、メキシコ系アメリカ人たちのギャングが使う言葉を「カロー」と言うんですよ。スペインのチカーノ、つまりジプシーたちがカローという言葉で指しているのは、黒人のことなんですね。つまり黒人に対する差別語がカローであり、そこから来て、今のメキシコ系のギャングたちの、 隠語がたくさん入った言葉がカローと呼ばれることが分かった。
それから、メキシコでグリンゴといったら、アメリカの白人を馬鹿にして呼ぶ言い方なんですね。これも色んな語源がありまして、 例えばアメリカのドルがグリーンのインクで印刷されているので、グリーンのお金を使う奴らという意味でグリンゴだ、というのが一番広く知られているる説でしたが、 この本によると、プロヴァンス語の「グレゴ」という言葉は「悪魔」という意味だそうです。 これがひょっとしたらメキシコに繋がっていって、メキシコでグリンゴと言ったらアメリカ白人を指して、悪魔と呼んでいるのかな、と思い当たりました。 こんな風に小さな発見がいくらでもあるのが、このシリーズの非常に嬉しいところです。」
http://www.junkudo.co.jp/UQ_report.html
カローとグリンゴ。その後どこでも使わなかった(話さなかった)ため、すっかり忘れていた。メキシコにイベリア半島からもちこされたさまざまな単語が微妙に意味を変えながら生き延びていることも、すっかり考えなくなっている。
今年はそろそろ、またメキシコに行きたい。