Saturday 15 September 2007

これはいいかも!アナム&マキ

どんなジャンルであれアートの大部分がおとなしく複製され包装された商品として流通し、それを家に持ち帰って一人で楽しむのが経験の大部分を占めるとは、いかにもさびしい。でもぼくの現状は、そうだ。するといま行われつつある創造についての知識も、すべては商品情報となり、商品知識ばかりがぐるぐる世界をめぐって、それで現代の風景を作っている。いかにもつまらない。だが、その中でも突然襲ってくるおもしろさはあるし、思いがけない出会いもある。生身の人や声との出会いは、蹴っていた石ころが何かにぶつかって急に方向転換するみたいに、人生に別の角度をしめすことがある。

こないだコンピュータの修理のために渋谷のアップルショップに行くと、女の子二人のデュオが店内ライヴをやっていた。ぜんぜん知らなかったが、つい聴き入ってしまった。アクースティック・ギターはめりはりが効いているし、声にもパンチがある。コーラスはソウルフル。お、いいかも、と思った。急いでいたのですぐに店を出たが、数日後、CDを手に入れた。

アナム&マキ、タイトルはNaked Girls(2007)。これはおもしろかった! 日ごろ、現代日本のシンガーやソングライターをぜんぜん追っていないので、彼女たちの名前すら知らず。だが聴けば、ギターはうまいし、好きな声だし、全般的な感覚が、ぼくにはなじめる。そして歌詞のおもしろさには特筆すべきものがある。引用はやめておくが、もし紙に書き出すなら「え? これって歌えるの?」と言いたくなるような遊びの多い歌詞が、アグレッシヴなメロディーに濃密につめこまれている。

おもしろい、おもしろい。偶然の出会いが、秋の夜長の楽しみにつながった。それから彼女たちも参加している、『アコギでクラプトン』というオムニバス・アルバムも買ってしまった。エリック・クラプトンのなつかしい名曲を、いろんな人たちが独自のアクースティックなアレンジで歌っている。これもどれもおもしろいが、バンバンバザールの「レイラ」は、ちょっと衝撃。そしてアナム&マキはクリームの不滅の名曲「ホワイトルーム」を彼女らの流儀でこなし、これにはしびれた。

まあ、しびれた、というのも死語ですけど。アクースティックは、アコースティックよりはましな表記ですので、以後、みなさんこれを使ってください(特に「英語リーディング1、2」に出ているみんな!)。