ジネディーヌ・ジダンの新しい伝記が出た。ブランシュとフレ=ビュルネ共著、翻訳は陣野俊史と相田淑子。白水社。マルセイユ出身のこのカリスマ選手の姿をいきいきと捉えて、じつに興味深い。
ジダンといえばマルセイユ。
「地中海に洗われ、陽光の溢れるマルセイユは、その特殊性をごく自然に育んできた。街はしばしばパリの権威を受け入れようとせず、中央に対して反抗的、つねに誇り高い街である。じっさい、マルセイユはフランスという国に背を向け、南へ、海へと視線を向けたがる。(...)結局マルセイユは、なによりも追放された多くの家族にとって、歓待の土地なのだ。コルシカ人、アルメニア人、スペイン人、イタリア人、最近ではアフリカ人が、少しばかりの自由と仕事を求めてやってきた。一番新しい移民の波の中で目立つのがアルジェリア人」
冒頭近くのこの一節だけで、ビーンと振動が高まる。このところ、やはりマルセイユ人である劇作家・詩人アントナン・アルトーの波動を浴びっぱなしなので、余計にそうだ。
音楽家でも詩人でもスポーツ選手でも画家でも、彼女や彼が育った土地と無縁であるはずがない。土地がかれらを決めるわけではない。でも土地はかれらをある流儀で育てるにちがいない。
訳者の一人、陣野さんには、来年度から「アート・コンテンツ特論1」(音楽文化論)を担当していただきます。きっと楽しめる、発見にみちた内容になるはずだ。