Friday, 24 August 2007

金沢で

ASLEという組織がある。文学・環境学会。アメリカにはじまり、世界各地にある。われわれが生きる環境をめぐる認識と、その言語表現の全体を相手にする、きわめて重要な視点でむすばれた学会だ。

この10年ほど、「文学の目的は?」という質問をうけるたびに、「生物多様性の維持に奉仕することです」と答えてきた。冗談でいっているのではない。生物の多様性の維持、それは地球環境の元来の多様性を少しでもよく守ることに立ってはじめて可能になることであり、そこでは現在のわれわれの社会、経済、生き方、集合的意志決定(政治)のすべてが問いなおされることになる。

実際、どんな分野でも、すべての生物種の生存とその条件を視野に入れない思考は、まるで無意味だと断言していい時期にきてしまったと思う。それくらい、「生命」は、この惑星で、追いつめられている。

さて、その文学・環境学会の、日韓合同大会が金沢で開かれた。韓国から20名近い参加者を得て、大変に充実した大会となった。ぼくは「ゲイリー・スナイダーとアジア」と題したパネルにディスカッサントとして参加。ぼくの生涯のヒーローともいうべき、この20世紀後半のアメリカの最大の詩人、エコソフィア(生態学的な知恵)を代表する野生の思想家と並んでパネルの席についただけで、ぼくにとってはあまりにも大きな経験だった!

スナイダー(1930年生まれ)は1950年代に日本に来て約10年をすごし、仏教や修験道の修行をつづけた。その経験にはじまる大乗仏教思想と生態学や人類学の知識を統合し、それを背景に活動し、書く。「ふたたび土地に住みこむこと」(リインハビテーション)を中心にすえたその生き方は、強烈で、示唆にとむ。彼のエッセー集『野生の実践』は、ぼくの人生にとってもっとも大きな意味をもつ本のひとつだ。そこには、共有されるべき何かが、はっきり語られている。

そして高銀(こ・うん)さんとの思いがけない出会いがあった。韓国でもっとも尊敬されている大詩人。つい先日、日本語訳詩集が出版されたばかりで興味を抱いていたものの、それはまだ本当の興味ではなかった。ところがご本人にいきなり出会って、その強烈さに圧倒された! 緩急自在、飄々として、突如、深淵がのぞく。軽み、明るさ、ユーモア、絶望、わだかまり、勇気。すべてが渾然一体となった、おそるべき巨大な精神、不屈の魂。そしてその温かみはかぎりなく、まわりのみんなを笑わせ、風のように去る。こんな人はいない。

22日夕方、曹洞宗の名刹・大乗寺で、お二人のポエトリー・リーディングがあった。すばらしいお寺で、最高のセッティングの中、ゲイリーの朗々としたゆたかで深い声と、高先生の飛ぶ鳥のさえずりのような声が、杉木立に響く。

なんという経験。これがまちがいなく今年のピーク。さあ、夏の残りをたまった仕事のために、もっぱら机の前ですごさなくてはならない。