6月16日はブルームズデイ。アイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスを敬愛するすべての人々が世界中で祝杯をあげる特別な一日だ。
ブルームとはジョイスの代表作『ユリシーズ』の登場人物、裏の主人公、中年のユダヤ人。この作品は1904年6月16日の一日に起きたできごとを、ダブリンの街を舞台に記している。故郷を離れたジョイスが記憶をたよりに再現してゆくダブリンが、いつしか神話のギリシャ多島海に変わり、主人公スティーヴンとブルームの小さな遍歴が多重的な意味をおびはじめる。
2003年のこの日、沖縄市で、文化人類学者の今福龍太さんが主催した「多言語で読むユリシーズ」のイベントに、ぼくも参加した。すでにいろいろな言語に訳されているこの20世紀文学の傑作を、できるだけ多くの言語で朗読し、その音の響きを楽しむという趣向。そのときはぼくはフランス語訳の朗読を担当。ラップ調のリズムによって、2ページあまりのパフォーマンスを行なった。
傑作だったのは、映画監督・金昇龍による大阪弁訳、翻訳家の浅野卓夫によるコロニア語(ブラジル日系コミュニティ語)訳、そして詩人・高良勉による沖縄語訳。ドイツ語訳、ロシア語訳、スペイン語訳などと並んで、ジョイスが体現する多言語空間を反響させる、楽しい一夜だった。
今年は札幌で、ブルームズデイのイベントが企画されている。
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古書店・書肆吉成が発行する「アフンルパル通信」に寄稿したぼくの詩が朗読される予定。参加できないのは残念だけど、こうして声をその場に「寄せる」ことができるのは、ほんとうにうれしいことだ。
すべてはジョイスの撒いた種子だと思うと、この流浪のアイルランド作家の偉大さが、改めてしのばれる。