Monday, 4 January 2016

年頭のご挨拶(ASLE-Japan)

ASLE-Japan 文学・環境学会のための年頭のご挨拶を転載します。

われれはどこから来たのか、何者なのか、どこに行くのか? ポール・ゴーギャンが畢生の大作のタイトルとして選んだこの言葉に、人文学一般の課題が凝縮されているように思います。そして人が人と地球世界を考えるにあたっての多岐にわたる関心が総合されるのは、やはり文学という想像力の実験場でのことではないでしょうか。

想像力の問いは、現実の社会を相対化し、私たちの判断に直接の影響をおよぼします。その意味で、文学研究はつねにクリティカルであり、アクチュアルであるという運命をまぬかれることはできません。それはさらに必然的に、さまざまな分野における想像力のかたちそのものを、深く問いなおす機会をも提供することでしょう。

「近現代」(モダン)と呼ばれる時代を支配してきた論理は、くりかえしその破綻をあらわにしながら、今日もみずからを延命させ、社会を実際に作っています。われわれがとりくむ、人間世界と環境、つまりは非=人間世界とのインターフェイスを、個々の人生の位置から考えなおすという立場は、「近現代」を規定してきた想像力・美意識・倫理の輪郭の全体を問題にすることにならざるをえないでしょう。

文学研究を経て、広大な環境人文学へ、そして個々のわれわれの生きる土地、暮らしの場へ。そんな往復運動に根ざした思考と生き方のスタイルを作り出すこと自体、ASLE-Japanという小さな集合体の、ささやかで本質的な目標だと思います。

みなさま、明けましておめでとうございます。今年もよい経験を、思考を、研究を。また、何度でも、どこででも、言葉をかわしましょう。



2016年1月1日
ASLE-Japan 代表
管啓次郎