午前中に大学の仕事をひとまず切り上げ、そのまま東京方面へ。丸善にちょこっと寄ったあと、銀座のキャノンギャラリーで中野義樹さんの写真展「Moments paisibles」を見る。一日の時間の推移と人々のライフサイクルを重ね、それが雨上がりの光により希望につながり、最後の「裏側から見た時計」でしめくくられるという構成。
最後の一枚だけがカラーで、これが効いている。中野さんとは文芸雑誌「すばる」の仕事で昨年ご一緒した。長い年月を重ねて、ある都市(もちろんその名は明らかなんだけど表には出ない)への訪問をくりかえし撮りためた写真から選ばれたものだ。「その街」から、ぼくもずいぶん遠ざかっている。また行ってみたいものだ。
ついで日比谷まで歩き、地下鉄で白金台へ。東京都庭園美術館で土曜日からはじまる「建築の記憶」の内覧。われわれは、実際にそこにいけない以上、建築の大部分を写真として体験している、という当たり前だが本質的な事実。すると現代建築も、100年前の建築も、写真によりおなじ平面に並ぶ。
非常に興味深く充実した展覧会だ。石元泰博さんの写真にぐっとくる。今年でもう80代後半だが、いまも毎日写真を撮り続けておられるようだ。畠山直哉さんの「アンダーコンストラクション」がDVDのスライドショーとして公開されていて、びっくり。これは市販されるなら欲しいなあ、写真集はもちろんもってるけど。でも発売されることは、ない。鈴木理策さんが雪の青森県立美術館を撮った連作も印象的。こうなると、現物も模型もない。青森犬に雪が積もり、奇妙な帽子をかぶったかたちになっていて、おもしろい。
そのまま夕闇迫る中を歩いて恵比寿ガーデンプレイスの写真美術館。3階の「土田ヒロミのニッポン」、2階の「スティル/アライヴ」、地下1階の「文学の触覚」を続けてみる。「ニッポン」では現代も残る奇怪な習俗のための扮装のでっかいパネルがおもしろい。
2階では屋代敏博という人の「回転回」というプロジェクトがクレイジーでおもしろかった。地下では、先日ディジタルコンテンツ学研究会に来ていただいたドミニク・チェンさんも参加しているDividualの作品展示を見ることができた。それと印象的だったのは、入り口近くにあった石井陽子「情報を降らせるインターフェース」。自分の掌に短歌の文字が、光が、降ってくる。そして終り近くにあった児玉幸子のモルフォタワー。回転するドリル状のものにどろどろした黒い油がからみ、もちあげられ、また流れ落ちて、作り出す気持ち悪いパターンに不思議な美しさ。油みたいなものは「磁性流体」なのだそうだ。砂鉄混じりの油みたいなものか?
みんないろんなことをやってるなあ。こうして駆け足のあとは駆け足で満員電車に乗り込み、帰宅。山手線の内側に住めば便利にちがいないと思うが、密度が。むかしの江戸は、いまの感覚からすると森閑とした、すばらしい都市だったにちがいない。そしてそれも、わずか百五十年ばかり前のことだ。