19日、沖縄県立美術館のレクチャー・ルームで、JPIC出版文化産業振興財団主催「声と文学」の第5回を開催しました。本谷有希子さんと、ぼく。朗読に始まり、声と文学をめぐる対話、そしてワークショップへと進みました。
本谷さんはまず短編集『嵐のピクニック』から「マゴッチギャオの夜、いつも通り」を読んでくれました。いま強烈に胸に迫ってくる作品。特に動物の命に関心をもつ人、必読です。
そして注目すべきなのは、この作品が彼女なりの東日本大震災に対する反応なのだ、という発言。ストレートなメッセージとしてそうあるわけでも、題材として震災を取り上げているわけでもありません。しかし、ここに表れている命をめぐる感覚が、確実に震災以後のものなのだ、ということでしょう。
これだけでなく、きょうの本谷さんの言葉には目を開かれることの連続でした。特に強く感動したのが「捨て小説」。3ヶ月ほどものあいだ、とにかく書けるかぎりの小説をどんどん書いてゆく。それをただ、捨てるために! 書けると思ったものすべてを捨てたあとで、やっと新しく、意味あるものが書ける。作家根性の強烈さを感じました。
ぼくが誤解していたこと。本谷さんは劇作家から小説家へとシフトしていったわけではなく、最初から両方のジャンルを並行して書いてきたそうです。そして「サウンドによって書くことがある」というのにも納得しました。音の展開を転写してゆき、そこに物語が自己生成する。
ワークショップは、やはり『嵐のピクニック』所収の「タイフーン」の最初の1行「食べな、これすごくおいしいんだ」を出発点とし「さよなら。またね」という行にむかって数行のやりとりを書くという試み。50人ほどの参加者のみなさんが熱中して、いくつものおもしろい作品を作ってくれたあとで、本谷さんがこの短篇も朗読してくれました。
いい刺激を受けて、ぼくもまた新しく、やる気が湧いてきました。これからも、どんな風に作家としての変貌を遂げていくのか。注目していきたい人です。