そのシンポジウムの質問時間、山本洋平さんが「どんな交通機関を使うかによってアメリカの移動・旅の経験も意識もまったくちがうものになるのではないか」という質問をくれました。
現在、われわれのほとんどは、航空機と車によって北米大陸を経験します。しかも車の移動といっても、インターステイト中心の走行と、田舎の未舗装の道を走るのでは、まったくちがった経験になります。自分で運転する車と、グレイハウンドのバスとでは、おなじ道も別の道。
歩くための土地としての北アメリカはすばらしいけれど、あまりに広大すぎてわれわれはどこにもたどりつけないでしょう。
それはともかく。乗り物という観点からして、過去100年ほどのあいだに世界中でもっとも失われてしまったものは何かと帰り道で考えていて、ふと思いつきました。それはロバ!
かつては世界中で山道を歩き、人を乗せ、荷物を運んでいたこの愛らしい動物が、いわゆる先進国では、どこにいってもほとんど姿を見ることができなくなりました。アメリカ合衆国にそれほどロバが根づいていたかどうかはわかりませんけれど(ロバよりはラバか)、メキシコでは人々の想像力の中にまだまだロバは根強く残っているし、それはそれだけ実際に飼われていたということ。
ごく狭い土地でも飼えるという、この馬と犬の中間に位置するような動物を、いつか自分で飼ってみたい、車代わりに!