『失われた時を求めて』、<私>がジルベルトに初めて会う一節が、あまりにみごとなので訳してみました。ブロンドの髪の印象が強すぎて、本当は黒い彼女の目を青い目と誤認してしまうところ。読んでみてください。
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生垣のすきまから見える庭園の小道は、ジャスミン、三色すみれとクマツヅラに縁取られ、そのあいまにニオイアラセイトウが新鮮な薔薇色の巾着型の花をひらき、コルドバの古い革の匂いがかすかにし、一方、小道の砂利の上には緑色に塗られた長い散水管がはりめぐらされ、ところどころの孔から水が花々の上に立ち上がってその香りをしめらせ、ごく微細な水滴たちはさまざまな色を見せるプリズム的な、垂直の扇となっていた。突然、ぼくは立ち止まり、そのまま動けなくなってしまったのだが、それはひとつの幻影がただわれわれのまなざしに訴えるのみならず、もっと深い知覚を要求し、われわれの存在全体を飜弄するときに起こることだった。赤みがかった金髪の少女が、どうやら散歩から戻るところらしく、移植ごてを手にしたまま薔薇色のそばかすのある顔を上げて、こっちを見つめているのだ。彼女の黒い目が輝き、ある強い印象を客観的要素へと分解してゆくということがそのときのぼくにはできなかったせいで、もっともそれ以後も学んでいないけれど、またぼくが、人がいうように、そもそも色を観念として特定するだけの「観察力」をもっていなかったせいで、長いあいだ、彼女のことを考えるたびに、ただちにその両目のきらめきの思い出が、もっぱら彼女が金髪だったがゆえに、鮮やかな青のそれとして甦ってくるのだった。それはまさに、彼女の目があれほど黒かったのでなければ----そのことには初めて彼女を見れば誰でも驚かされるはずだ----ぼくは彼女においてそれらの青い目によりいっそう特定的に恋してしまうということにはならなかっただろう。