Monday, 10 July 2017

ユトレヒトにて

ACLA(アメリカ比較文学会)の年次大会が、今年は初めてヨーロッパで開催されました。舞台となったのはユトレヒト大学。古く気持ちのいい大学町、チャーミングなキャンパスで、文学・文化研究のあらゆる分野に関わるたくさんのセミナーが、7〜9日の3日間にわたり同時並行で開催されました。

ぼくはケンタッキー大学のDoug Slaymakerとともに "Ecocritical Consciousness in Contemporary Literature and Arts: Trans-Pacific Perspective" というセミナーを組織。レイ・マゴサキ、アキコ・タケナカ、波戸岡景太、上野俊哉のみなさんが参加し、順次発表し、ディスカッションを行いました。

ぼくが今回とりあげたのは草野心平。"What About Frogs? Kusano Shinpei's Bio/geo-poetics" というタイトルで、彼のおびただしい蛙の詩がわれわれに教えることを考えてみました。もう少し練り上げて、活字として発表できればと思っています。

夏のオランダは最高の気持ち良さ。夜は10時半ごろまで明るいので、すべてが終わってからカフェのテラスでのんびりビールを飲んで談笑することができます。今回は大会の基調講演者のひとりがTrinh T. Min-haで、木曜夜に行われたすばらしい基調講演に加えて、映像作品の新作 "Forgetting Vietnam" を土曜日の夜に観ることができました。深い衝撃と感動。この作品、ぜひ日本でも上映会を企画したいと思います。

ぼくはトリン・ミンハの最初の翻訳者のひとりですが(90年代初め)、しばらく彼女の世界にふれることから離れてしまっていたため、今回はまったく新鮮な気持ちで、彼女の独特な知性と感受性にまるごとふれることができました。真に驚くべき存在。同時に、ヴェトナム戦争という途方もない経験の波動を、日本における小学生時代から濃厚に浴びていたわれわれの世代には、その歴史を真剣に考えなくてはならない義務があると思いました。

いろいろな収穫のあった学会参加の週末でした。アメリカ比較文学会に初めて参加したのは1997年のプエルト・バジャルタ(メキシコ)。Patrick Murphyが組織した、最初のecocriticismのセミナーで、そのとき一緒に出席していたUrsula Heise (UCLA)が 、今回のわれわれのセミナーを2日間にわたって聴きにきてくれました。20年後の彼女は、いまではこの分野の第一人者。緻密に書かれたImagining Extinction: The Cultural Meanins of Endangered Species (2016)は、まさにスカラシップのお手本のような見事な研究書です。

それに応答するような本を、ぼくも書かなくちゃ。たとえ研究書というかたちをとらなくても。