むかしは季節は夏がいちばん好きで、そのころ一生分の熱帯海岸生活をしたせいか、いまは冬がいちばんいい。でも東京の冬というと抜けるような青空。温暖。曇り空、雪、海に舞う海猫と雪が欠けている。「雪が降れば海の色は変わるのだろうか?」(パヴェーゼ)。
それで遅ればせながら『海炭市叙景』(監督・熊切和嘉)。見ているあいだ、心は全面的に函館。エピソードの積み重ねで主要人物がシフトしてゆく構成によって、何よりもその町が、土地が置かれた気候風土が、つねに前景化される。これは旅だ。
星空を見たくなり、海をわたる船に乗りたくなる。音楽がすばらしい。ジム・オルークか。名前しか知らなかった作家、故・佐藤泰志の、原作も読んでみよう。それにつけてもラストの猫ちゃんとおばあちゃんの手、いいですね。万感がこもっている。
函館出身の西澤くん、ひさしく会ってないけれど、『海炭市』を見た? また会いましょう。