Monday, 29 June 2009

真夏のおおみそか

いよいよ今年も前半終了間際。大きな仕事がぜんぜん進んでいないので、じりじりと焦り。だが焦りとは、時間との最悪の関係だ。とにかく少しずつ進めていこう。

土曜日(27日)の夕刊に掲載されていた、若田光一さん撮影の上空337キロからの千島列島の火山爆発の写真は、ほんとにすごい。どんな写真家だって撮れない、究極の1枚。こうした科学写真の研究をするヤツ、誰かいないかな。航空写真の歴史だけだって、相当におもしろいはず。

ついで日曜日、軽井沢へ。初めての軽井沢は、御代田のメルシャン美術館。このあたりに武満徹が住んで作曲をしていたんだと聞き、へえっと思う。浅間山が見えて、いいところだ。

展覧会は「もうひとつの森へ」。すばらしかった。彫刻の三沢さん、写真の津田さん、ビデオ・アニメーションのマイさん、みんなすごくいいし、会場設営の豊嶋さんのセンスにもひたすら感心。そして今回のお目当ての、佐々木愛さんのインスタレーション=壁画。

強烈だった! 大きな壁面いちめんに、白一色のメレンゲの森が描かれている。森は倒立している。まるで夕日のような、斜めからの光を浴びる森の前を左右に行ったり来たりすると、陰がどんどん変わる。同時に、メレンゲのエッジが銀色に輝き、茫然とする美しさ。倒立しているということは、この壁は、いわば水面。するとわれわれの頭上に、反映以前の実在の森がひろがっているわけか。建物にはそれはない、建物の外にも。だがこの区域の全体が、じつはまるごと森に属しているのか。

4人のアーティストのバランスが見事。キュレーションのよさを感じた。ユーモアあり、遊びあり、そしてめざしているものの凝縮度が、きわめて高い。展示期間が終わると、愛さんのこの絵は壊されてしまう。惜しいなあ。惜しいけど、それを含めての制作なんだろうか。

その日曜の夜、自宅のそばでひさびさにハクビシンに遭遇。深夜の道路をわたって、金網のフェンスを苦もなく上り、下りて、近所のマンションの庭に消えていった。尾の長さが見事。がんばって繁殖してほしい。

おなじく日曜日で、日本経済新聞の月間連載「半歩遅れの読書術」終了。はじめはまるでちがう主題で準備していたのだが、現在品切れの本を取り上げるのは避けたいとのことで、急遽、高校時代の読書の思い出話にした。西脇順三郎、林達夫、吉田健一、植草甚一という、ぼくが強い影響を受けたジーサン4人について、順次(かれらの生年は順に1894、1896、1911、1908。ぼくの祖父たちも、いずれも19世紀人)。いい機会だった。長いあいだ忘れていたことを、いろいろ思い出した。

読書はけっして本の内容だけの問題じゃないなと改めて思う。読書の時空の周辺にあった記憶が、どうやら本の思い出に重ねられるかたちで組織されているらしい。要は、そのときどきに、自分が周囲の世界をどう把握し構築していたかということ、そのまるごとの問題なんだろう。

本はいい、ハクビシンはいい、森はいい、噴火はいい、宇宙もいい。そして佐々木愛の絵と心意気は、とてもいい。

なお、メルシャン美術館そばの浅間縄文ミュージアムも、非常に興味深かった。軽井沢に行ったら、みんな、ぜひ寄りましょう。結局、われわれは縄文をレファレンスとして現代生活を考え直すのがいちばんいいと思う。2000年前、列島の人口が推定59万人(たしか展示にそうあった)だったころを思い出しながら。