みすず書房のPR誌「みすず」は恒例の「読書アンケート」特集。2007年のあいだに読んで印象に残った本をいろいろな人があげていて、ぼくも参加してます。もうずいぶん、毎年書いてる。2001年ごろからか?
ぼくがあげたのは以下のとおり。いずれも「翻訳文学」の枠から。
(1)ギヨーム・ド・ロリス/ジャン・ド・マン『薔薇物語』(篠田勝英訳、ちくま文庫)、(2)ソル・フアナ『知への賛歌』(旦敬介訳、光文社古典新訳文庫)、(3)シルヴィー・ジェルマン『マグヌス』(辻由美訳、みすず書房)、(4)チママンダ・アディーチェ『アメリカにいる、きみ』(くぼたのぞみ訳、河出書房新社)、(5)高銀『いま、君に詩が来たのか』(青柳優子ほか訳、藤原書店)
選んだ理由は、ぜひこのすばらしい小冊子を入手して、読んでみてください。
いろいろな人があげている本を見ると、知らないものも多く、猛然と読書欲に火がつく。でも時間がなくて、ほとんどはそれっきりなんだけどね。たとえば栩木伸明さんがあげている松岡利次『アイルランドの文学精神』とか、松野孝一郎先生があげているダグラス・ホフシュタッターの新作 I am a Strange Loopとか、ぼくが哲学者・多言語使用研究者のひとつの理想型だと考えている冨原真弓さん(シモーヌ・ヴェイユの研究者にして「ムーミン」の翻訳者)があげる今村・塚原訳によるソレル『暴力論』とか、文章道の先達・大竹昭子さんがあげる十文字美信『感性のバケモノになりたい』などは、すぐに入手しなければ救われない。
日本語世界は、すごいよ。すごい本はたくさん出てるんだ。ただ、それが根付いてゆかない。また、他所の言語に反響を作り出せない。そのへんを少しずつでも克服する方向に、作業を進めよう。ひとりひとりの力は限られている、あまりにも。動きは、すべて、連結が作り出す。
Wednesday, 6 February 2008
改革ではなく変化を
「中央公論」2月号が「崖っぷち、日本の大学」という特集を組んでいて、冒頭にあった批評家・蓮實重彦さんのインタビューを読んだ。元東大総長の彼は、あらゆる「改革」に反対の立場だそうだ。以下、引用。
なぜなら、「改革」とはつまるところ「法律を作ること」だからです。法律を作るということは、そこで動きを止めるということですが、皆さん、そのことをあまり理解しておられない。今、日本社会に起きている悲劇は、「改革」の名の下に人々の動きを止めた結果がもたらしたものなのです。
これには、まったくそうだ、と頷かずにはいられなかった。改革は、例外なく、新しいルールを決めることで行なわれる。そこには、もはや臨機応変もなく、創意工夫もなく、個々の裁量にまかされる部分もなく、即興可能性もない。たとえば、どの教室もおなじテクストを使い、どの教師もおなじ教え方をするような大学に、存在意義はあるのか? 少なくとも語学に関するかぎり、答えはノーを100回。
蓮實さんは「入学初年次の教育が最もパワフルなものになるよう強化すること」とおっしゃっているが、これも全面的に賛成で、1年生に驚きを与え、大学の勉強とは「高校までの勉強とはまったくちがう楽しいもの」(黒田龍之助)だということを教え、何も知らないくせに高を括って「大学なんてこんなものか」と思い込むような学生の先入観をこなごなにすることは絶対に必要だと思う。
さらに蓮實さんの言葉を引く。「日本の大学教育では、十年一日のごとく、学期末に一度試験をして、もしくはレポートを書かせて、学生を評価しています。こんな明治時代と同じやり方で、今の学生が育つはずはない」。そのとおり。まったく耳が痛い話で、ぼくもいくつかの授業をそうしてすませてきた。何も身についていないにも関わらず、何かを学んだものとしてすませる。じつに下らない。
それをいうなら、2007年度のフランス語検定の結果だって、大きなことはいえなかった。たとえば4級に受かったからといって、得点60パーセント(合格ライン)をちょっと超えたくらいの場合、フランス語力なんて何も身に付いていないのが大部分だ。たぶん、動詞を活用させてちゃんと綴りを書くことはできないし、選択肢ではなく記述式の試験なら、ばたばたと落ちていることだろう。だが言葉とは、そういうものではない。
なんだかんだで、考えこむこと、しきり。結局は、燃えるような「学びたい」という気持ち、その火にいかに油を注ぎ、それにいかに答えるかだけが問題だ。新しい同僚を迎えて、この4月からは、また新たな道を探りたい。
授業はこれまでになくきびしくなるよ。特に2年のフランス語のみんな、覚悟。小テストも何度もやるよ。少なくとも「辞書があればたいがいのものは見当がつく」という境地をめざしたい。
なぜなら、「改革」とはつまるところ「法律を作ること」だからです。法律を作るということは、そこで動きを止めるということですが、皆さん、そのことをあまり理解しておられない。今、日本社会に起きている悲劇は、「改革」の名の下に人々の動きを止めた結果がもたらしたものなのです。
これには、まったくそうだ、と頷かずにはいられなかった。改革は、例外なく、新しいルールを決めることで行なわれる。そこには、もはや臨機応変もなく、創意工夫もなく、個々の裁量にまかされる部分もなく、即興可能性もない。たとえば、どの教室もおなじテクストを使い、どの教師もおなじ教え方をするような大学に、存在意義はあるのか? 少なくとも語学に関するかぎり、答えはノーを100回。
蓮實さんは「入学初年次の教育が最もパワフルなものになるよう強化すること」とおっしゃっているが、これも全面的に賛成で、1年生に驚きを与え、大学の勉強とは「高校までの勉強とはまったくちがう楽しいもの」(黒田龍之助)だということを教え、何も知らないくせに高を括って「大学なんてこんなものか」と思い込むような学生の先入観をこなごなにすることは絶対に必要だと思う。
さらに蓮實さんの言葉を引く。「日本の大学教育では、十年一日のごとく、学期末に一度試験をして、もしくはレポートを書かせて、学生を評価しています。こんな明治時代と同じやり方で、今の学生が育つはずはない」。そのとおり。まったく耳が痛い話で、ぼくもいくつかの授業をそうしてすませてきた。何も身についていないにも関わらず、何かを学んだものとしてすませる。じつに下らない。
それをいうなら、2007年度のフランス語検定の結果だって、大きなことはいえなかった。たとえば4級に受かったからといって、得点60パーセント(合格ライン)をちょっと超えたくらいの場合、フランス語力なんて何も身に付いていないのが大部分だ。たぶん、動詞を活用させてちゃんと綴りを書くことはできないし、選択肢ではなく記述式の試験なら、ばたばたと落ちていることだろう。だが言葉とは、そういうものではない。
なんだかんだで、考えこむこと、しきり。結局は、燃えるような「学びたい」という気持ち、その火にいかに油を注ぎ、それにいかに答えるかだけが問題だ。新しい同僚を迎えて、この4月からは、また新たな道を探りたい。
授業はこれまでになくきびしくなるよ。特に2年のフランス語のみんな、覚悟。小テストも何度もやるよ。少なくとも「辞書があればたいがいのものは見当がつく」という境地をめざしたい。
春からの新しい世界
もうちゃんと学生のみんなに紹介していいころだと思うが、われわれ理工学部総合文化教室では、この春から新しい専任の先生おふたりをお迎えする。
まずフランス語の清岡智比古さん。白水社の『フラ語』シリーズで知られるカリスマ教師。この春からはNHKラジオのフランス語講座の講師も担当される。専門分野はシュルレアリスムの詩、そしてフランス映画史。小説家でもあり、その楽しい授業はすでに生田でも(現在は非常勤講師)、経験した人も多いはずだ。
そして中国語の林ひふみさん。新井一二三の筆名で講談社現代新書の『中国語はおもしろい』を出している彼女は、まったくの日本人だが、じつは中国語のエッセー集を十冊以上出している、人気コラムニスト。台湾や香港の新聞では、彼女のコラムを楽しみにしている読者がたくさんいる。こんな人は、まちがいなく、これまで誰もいなかった!
台湾の出版社がやっている、ひふみ先生のサイト。
http://www.titan3.com.tw/hifumi/
漢字を拾っていくと、わかる部分もちらほら。
1、2年生対象の「総合文化ゼミ」で、おふたりはそれぞれフランス映画と中国映画をとりあげてくださるそうだ。これは絶対に楽しいから、ぜひお勧めしたいと思います。
2007年春の新任だった倉石信乃さんと波戸岡景太さん。そしてこんどの清岡さんと林さん。総合文化教室も、激動の時期。こんなときこそ、大学を楽しく、変化に富んだ、ほんとうに新しい何かが生まれる場所に育ててゆくチャンスだ! 「大学はおもしろい場所でなくちゃ」という言葉を残して生田を去った元同僚・黒田龍之助さんの言葉を、ひとりかみしめる冬の夜だった。
まずフランス語の清岡智比古さん。白水社の『フラ語』シリーズで知られるカリスマ教師。この春からはNHKラジオのフランス語講座の講師も担当される。専門分野はシュルレアリスムの詩、そしてフランス映画史。小説家でもあり、その楽しい授業はすでに生田でも(現在は非常勤講師)、経験した人も多いはずだ。
そして中国語の林ひふみさん。新井一二三の筆名で講談社現代新書の『中国語はおもしろい』を出している彼女は、まったくの日本人だが、じつは中国語のエッセー集を十冊以上出している、人気コラムニスト。台湾や香港の新聞では、彼女のコラムを楽しみにしている読者がたくさんいる。こんな人は、まちがいなく、これまで誰もいなかった!
台湾の出版社がやっている、ひふみ先生のサイト。
http://www.titan3.com.tw/hifumi/
漢字を拾っていくと、わかる部分もちらほら。
1、2年生対象の「総合文化ゼミ」で、おふたりはそれぞれフランス映画と中国映画をとりあげてくださるそうだ。これは絶対に楽しいから、ぜひお勧めしたいと思います。
2007年春の新任だった倉石信乃さんと波戸岡景太さん。そしてこんどの清岡さんと林さん。総合文化教室も、激動の時期。こんなときこそ、大学を楽しく、変化に富んだ、ほんとうに新しい何かが生まれる場所に育ててゆくチャンスだ! 「大学はおもしろい場所でなくちゃ」という言葉を残して生田を去った元同僚・黒田龍之助さんの言葉を、ひとりかみしめる冬の夜だった。
Monday, 4 February 2008
kinMgi
電車の中でサントリーの発泡酒「金麦」の吊り広告を見て、感心した。誰か知らない女優の顔にKIN GIの文字があしらわれて、「む」の音にあたる部分が唇になっている。省略されている文字は「M」、つむった唇が子音を表す。日本語で、この並びだと、「きんむぎ」とたとえひらがなで書いても、「む」の母音をちゃんと発音する人は割合少ないはずだ。つまり、Mだけで用は足りている。この議論は、広告企画の会議でちゃんと出たにちがいない。さすがサントリー宣伝部。
世の中で感心することは、ほんと、枚挙にいとまがない。昨晩はテレビの「情熱大陸」で、ブックデザイナーの祖父江慎さんがとりあげられていた。まちがいなく、世界のブックデザインの最前衛。めちゃくちゃなことを次々にやっている! どういうことをやっているかはそれぞれ調べてもらうことにして、昨日の番組でエピソード的に感動したことを3つくらいにまとめておこう。
(1)蜘蛛を見かけるとそれを手にとって遊び始めるようす。
(2)近所のタバコ屋までスキップでタバコを買いに行くところ(祖父江さんは1959年生まれのおじさん)。
(3)漱石の『坊ちゃん』のあらゆる版を集めていること。これでデザインによりおなじ作品がいかに表情を変えるかがわかる。
まさに天才の日常。驚き、あきれ、感動しました。
DC系の学生からも、いつか広告やグラフィックデザイン、ブックデザインといった分野で活躍する人が出てほしい。料理でもいいけど。いよいよ第2期入試の月になった。
世の中で感心することは、ほんと、枚挙にいとまがない。昨晩はテレビの「情熱大陸」で、ブックデザイナーの祖父江慎さんがとりあげられていた。まちがいなく、世界のブックデザインの最前衛。めちゃくちゃなことを次々にやっている! どういうことをやっているかはそれぞれ調べてもらうことにして、昨日の番組でエピソード的に感動したことを3つくらいにまとめておこう。
(1)蜘蛛を見かけるとそれを手にとって遊び始めるようす。
(2)近所のタバコ屋までスキップでタバコを買いに行くところ(祖父江さんは1959年生まれのおじさん)。
(3)漱石の『坊ちゃん』のあらゆる版を集めていること。これでデザインによりおなじ作品がいかに表情を変えるかがわかる。
まさに天才の日常。驚き、あきれ、感動しました。
DC系の学生からも、いつか広告やグラフィックデザイン、ブックデザインといった分野で活躍する人が出てほしい。料理でもいいけど。いよいよ第2期入試の月になった。
Sunday, 3 February 2008
『燃えるスカートの少女』
暮れに角川文庫に入ったエイミー・ベンダー『燃えるスカートの少女』。文庫になって新しい読者をたくさん得ることができたようで、いろいろな人のブログでふれられています。キャンパス内の丸善ブックセンターでも、何人かの人が問い合わせてくれたとか。そろそろ入荷しているのでは。うれしいことです。
いま出ている「週刊現代」の「リレー読書日記」では、直木賞をとったばかりの桜庭一樹さんが3冊のうちの1冊として取り上げて論じてくださいました。桜庭さんは、とにかく、すごい読書家。書評家の豊崎由美さんと並ぶ、翻訳文学の旺盛な読者である彼女が読んで、作家としての共感をエイミーに感じたのであれば、訳者としてはちょっと/かなり/相当むくわれたということになるでしょう。
文庫版の好評は、解説の堀江敏幸さんと帯の言葉をいただいたよしもとばななさんのおかげが大きいと思います。ありがとうございました。エイミーの第2短編集『わがままなやつら』も、まもなく発売されます。前作以上に強烈、そして洗練の度合いを加えています。ちょうど昨日、「訳者あとがき」を書いたところ。ご期待ください!
いま出ている「週刊現代」の「リレー読書日記」では、直木賞をとったばかりの桜庭一樹さんが3冊のうちの1冊として取り上げて論じてくださいました。桜庭さんは、とにかく、すごい読書家。書評家の豊崎由美さんと並ぶ、翻訳文学の旺盛な読者である彼女が読んで、作家としての共感をエイミーに感じたのであれば、訳者としてはちょっと/かなり/相当むくわれたということになるでしょう。
文庫版の好評は、解説の堀江敏幸さんと帯の言葉をいただいたよしもとばななさんのおかげが大きいと思います。ありがとうございました。エイミーの第2短編集『わがままなやつら』も、まもなく発売されます。前作以上に強烈、そして洗練の度合いを加えています。ちょうど昨日、「訳者あとがき」を書いたところ。ご期待ください!
Friday, 1 February 2008
二月
はやくも二月! 空が明るい。例年この季節がいちばん慌ただしい。やっと学年末試験の成績をつけ終えたところ。語学の授業、くりかえし警告を発してきたにもかかわらず、なんの準備もせずに試験を受けた数人には、ざくざくと落ちてもらった。ほんの50語くらいの単語や熟語も覚えずに受けたって、それはダメだよ。大学なんだから。別にきみたちの世界観・人生観まで問うつもりはないが、最低限の知識まで「こんなこと知らなくていいよ」といえるわけはない! 答案用紙のすみっこに「単位くださ〜い」と書くやつらが、21世紀になってなお残っているとはあきれる(むかしはたくさんいた)。そこまで書くなら、堂々と「大学なんていらない」宣言をするか、あるいは「語学は廃止しよう」という運動でも起こしたらどうだ。
これから入試関連の業務がすべて終わるまでは、気が抜けない。並行して、春からの新設大学院準備が、まだいろいろ。原稿が遅れてご迷惑をおかけしているみなさまには、ひたすらお詫びします。
ところでドトール・コーヒーで持ち帰り用コーヒーを買って、カップにちょっと感心した。他の店だったらボール紙のスリーヴを巻いてよこすところを、表面に突起が並んだ紙カップにしている。なるほど、これなら最高の断熱材としての空気をうまく使えて、熱くない。内側はツルツル。よく考えてあるなあ。材質は一年草の「ケナフ」で、これは「ハイビスカスに似た一年草」「二酸化炭素を杉の約15倍も吸収する」のだそうだ。
ケナフ。けなり。イナフ。ナフナフ。ナイフ。イフ。意味なく音が続くうちに、空はもう夕方。
これから入試関連の業務がすべて終わるまでは、気が抜けない。並行して、春からの新設大学院準備が、まだいろいろ。原稿が遅れてご迷惑をおかけしているみなさまには、ひたすらお詫びします。
ところでドトール・コーヒーで持ち帰り用コーヒーを買って、カップにちょっと感心した。他の店だったらボール紙のスリーヴを巻いてよこすところを、表面に突起が並んだ紙カップにしている。なるほど、これなら最高の断熱材としての空気をうまく使えて、熱くない。内側はツルツル。よく考えてあるなあ。材質は一年草の「ケナフ」で、これは「ハイビスカスに似た一年草」「二酸化炭素を杉の約15倍も吸収する」のだそうだ。
ケナフ。けなり。イナフ。ナフナフ。ナイフ。イフ。意味なく音が続くうちに、空はもう夕方。
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