2013年4月26日金曜日

Uncovering / Walking

昨秋11月15日にAITで収録した「東京事典」。ぼくのプレゼンテーションの全文を掲載します。

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Uncovering. 覆われたものから覆いを取り除き、光と風にさらす。覆われているのは土、そして水。人間たちの都市はアスファルトとコンクリートという鉱物的な素材によって、地下と地表の世界を分断し、水と水を分断してしまった。舗装は交通に奉仕し、物資や人の流れの管理を容易にする。でも命は? 閉ざされ固められた水路がどれほど水を流しても、そこに美しさが生じる余地はない。命の場所がない。

 覚えている人はたくさんいるはずだ。半世紀前、東京にも未舗装の道路や空地がいくらでもあった。土地は少しずつ覆われていった。排水と汚れを呑みこみながらも、さらさらと流れる川もたくさんあった。川は暗渠とされていった。人工物の非情な面に覆われて、地水火風の流動はせきとめられ、都市は生命に敵対する。

 みみずたちの活動を、チャールズ・ダーウィンは造山運動に喩えた。土を作ったのはかれらだ。みみずたちがいなければこの地表では、現在のようなかたちで生命が営まれることはなかった。だがかれらの活動も、舗装された街の下では、きびしく制限されている。もぐらが死んだ。蛇もとかげも住めない。

 水が流れるところ、樹木と草が育ち、魚が住み、鳥が集まる。けれどもその流れに対して、太陽の光や新鮮な風にふれる権利を奪うとき、そこで生きることのできる生命はごく限られたものになる。生命とはわれわれの想像をはるかに越えてしぶといものなので、どんな環境であれ何かが生きてゆくだろう。だがわれわれが親しみ、われわれをその共同体の一員として迎えてくれたような、多くの哺乳動物や鳥類を擁する土地は、ヒトの自己規制と意識の改革がないかぎり失われてゆく一方だ。

 けさ、神田小川町を歩いていた。ここはかつて元鷹匠町と呼ばれていた。鷹匠が住み鷹を飼い小動物や鳥を狩る。その狩猟のマトリックスとなる草原があり、湿原があった。かつて日比谷は入江だった、海だった。整備される以前の水辺は当然、葦やすすきが茂る湿原であり、ひしめく生命のための広大な場所だったはずだ。江戸を忘れて、さらに千年を、二千年を遡ろう。そこにひろがるこの土地のかつての姿をすべて忘却によって舗装し、そこに貨幣と商品をしきつめ、われわれはいったいどんな生き方をしようとしているのか。

 ぼくはuncoveringを提唱したい。都市の一定区域から覆いを取り除き、エレメンツの循環を確保することだ。ヒトでありヒトでしかないわれわれも、土を踏む権利を主張しよう。舗装された歩道ではなく、なまなましく露出した赤土や火山灰を踏みながら日々を暮らそう。森を回復し、落葉を踏みしめよう。舗装道路の総面積を現在の6割以下にまで縮小し、一定以上の面積を占めるすべての都市建築のマージンに露出した土と樹木の地帯を義務づけよう。植林しよう。多種多様な植物が織りなす土着の植生を回復しよう。森を作ろう。

 プエブロ・インディアンのある村では、村の中の地面にいくつかの聖なる地点があるのだという。子供たちは遊びながらでも、それらの地点をなるべく多く踏むことを勧められて育つ。踏めば踏むだけ、それはその子の命にとって、力になるからだ。踏めば踏むだけ、土地の力も増す。踏むことは感謝の表現であり、祈りの一形式だ。すべてを人工物で塗りつぶしたわれわれの都市は、そんな地点をふたたび想像し、その実在をつきとめなくてはならない。そこに小さな森を作り、日々その森をめぐりながら、その地点を足で踏みながら、暮らしてゆくことにしよう。そのとき「東京」が取り戻すのは、失われ、ないがしろにされてきた聖性の感覚であり、生命の循環に対する、必要な意識の覚醒だ。


Walking.

海が上陸してくる、その海岸で
波が立ち上がり歩いてくる、その海岸で
波が打ちつける岩に埋もれた火山弾に手をふれた後
ぼくも歩いた、かつての誰かの後を追って
ぼくは歩いた、数人の幽霊をひきつれて
海猫のにぎやかな歌声を聴きながら
強い風を浴び
明るい光を浴び
初秋のある謎めいた午後を
北の村にむかって
無口な鮫たちの村にむかって
広大な芝地がひろがる海岸を
重力に逆らって
時間に逆らって
ヒースの藪が燃えるように踊っている
太陽がくるくると回り世界を陰画にした

The sea comes landing, to the shore,
The waves stand up and come walking, to the shore,
I touch a volcanic bomb in the rock beaten by the waves,
And I, too, walk on the shore, following somebody from the past.
I walk, accompanied by several ghosts,
Listening to the gay songs of the seagulls (that we call “sea cats” in Japanese).
Exposed to the strong wind,
Basking in the bright light,
In an unknowable afternoon at the beginning of this autumn,
Heading towards a northern village,
Heading towards the village of the wordless Shark,
On the coast where a vast grassland spreads out,
Against gravity,
Against time.
The heath bushes are dancing as if they were burning.
The sun keeps spinning and turns the world into a negative.

秋が歩いてくる、風の無謬の足で
すすきの湿原を、すすきの隙間を
早すぎる秋を出迎えるつもりで
私たちも無言で歩いていた
狭い、狭い木の道を行けば遠い山の姿が見える
高い、高いすすきの影に快活な知識をもつトンボが乱舞する
物陰に潜むのはどんな日の生者たちか
ここで氷を割ったのかい
石を焼いたのかい
どんな季節のオレンジ色の太陽やどんな雨雲の下で
歌があったの
笛と弦を知っていたの
群れなす鳥を捕ったの
すすきが隠す古い旋律には耳が届かないけれど
ざわめく雲のような希望を捨てることはない
私はきみたちに語りかける

Autumn comes walking, with the infallible feet of the wind,
Through the shallow marshland, through the narrow openings of the tall silver grass.
We, too, are walking, speechless
With the intention of welcoming this autumn that has come too early.
Walking on this narrow wooden boardwalk, we see the shapes of the faraway mountains.
In the shade of the tall silver grass, dragonflies with cheerful knowledge dance wildly.
Hiding in the shades are the living of what past periods?
Did you break ice here?
Did you burn stones here?
Under the orange sun of which season, and under what kind of rain clouds?
Did you sing songs?
Did you play the pipes and strings?
Did you capture flocking birds?
My ears cannot reach the old melodies buried under the silver grass
But there’s no need to give up your hope that’s humming like clouds.
I am addressing all of you.

いかにしてみずからを生んだのか
どんな成長の痕跡を留めているのか
森は究極的には水の色をしている
雲の色だ、花崗岩の色だ
雨と雪の色だ、腐葉土の色だ
きわめて多量の水に島のごとく浮かぶかたちで
この森が、この土地で、ゆらゆらと揺れている
霧の色だ、霜柱の色だ
そのすべての水の色から
自然の音階をたどるようにして
あらゆる色調の緑が成長する
葉緑素の呼吸と振動につれて
潜在する緑はエイの尾のように先鋭化し
咲き出す、舞い出す、狂い出す
そのどんな動きが自然の蓄音機に移しとられるのだろう
ほら、この蔓はぼくのつむじとまったく同型だ
生命の螺旋を貝殻のように力強く踊っている

How did it give birth to itself?
What traces of growth does it retain?
The forest, ultimately, is the color of water.
It’s the color of clouds, the color of granite,
The color of rain and snow, the color of rotten leaves.
Floating like an island on an enormous amount of water,
This forest, in this land, is gently swaying.
It’s the color of mist, the color of ice needles.
From all the colors of water
As if following the musical scale of nature
Green of all hues grow.
Along with the breaths and vibrations of chlorophyll
The latent greens sharpen themselves like the tails of rays.
They bloom, they flutter, they go mad,
What movement from that process could be registered by nature's gramophone?
Look, this vine is exactly isomorphic with my hair’s whorl,
Strongly dancing the spiral of life, like a seashell.