Friday, 13 June 2008

「出版ダイジェスト」2008年初夏号

人文系出版社が作る出版梓会の「出版ダイジェスト」(みすず書房の号)に、細川周平『遠きにありてつくるもの 日系ブラジル人の思い・ことば・芸能』の書評エッセー「<家郷の病>から病みあがるために」を寄稿しました。

音楽学者・細川さんの日系ブラジル研究の集大成。ぼくが結局入ってゆけなかったブラジル空間への没入ぶり、感動的です。本自体は、7月中旬に刊行とのこと。

ぼくがブラジルに滞在したのは1984年。そろそろまたブラジルに行きたくなってきた。

Tuesday, 10 June 2008

路上で

ある惨劇が、自分の生活圏に近く起こればそれを記憶し、遠く起これば何とも思わないのは、それ自体いやなことだ。ミャンマーを、四川を、遠い土地のできごととして無情にやりすごしているわれわれが、アキバに関しては大騒ぎするとなると、それはほんとうにいやなことだ。

でもやはり、あのよく知った路上で、あれほどの卑劣さが発揮されると、絶句し、その事件を絶えず反芻することにもなる。

http://akibanana.com/?q=node/879

池田小のときもそうだったが、こういう事件があると、死刑というのはあってもなんの意味もない、あるべきではない刑罰だという気になる。互酬性(人の命を奪ったなら自分の命で償う)とは、それ自体、別に正当な根拠のある考え方ではない。

卑劣きわまりない愚行によって、路上で命を奪われた方々のために、せめて黙祷をささげたい。

Saturday, 7 June 2008

My Dog Essay

雑誌「水声通信」24号は特集「交感のポエティクス」。エコクリティシズム系の論考に混じって、「動物説教、狼と犬、そして犬の教え」というエッセーを寄稿した(51〜57ページ)。

異種間コミュニケーションという主題にはむかしから関心があって、すると犬とイルカが人の最大の相手になるのはあたりまえ。たとえばカブトムシとのコミュニケーションは、ごくごく限られた範囲でしか経験したことがない。カブトムシは反応する、でもなつかない。

もちろんチンパンジーやオウムがいるが、ぼくは犬とイルカ。

犬については、今後も少しずつ書いていきたい。そしていまいるミニ・マスティフと並んで、でっかいマスティフ系をいつか飼いたい。

Friday, 6 June 2008

『やし酒飲み』の帰還

ナイジェリア、ヨルバランド(ヨルバ人の土地)出身の大作家エイモス・チュツオーラ。彼の代表作『やし酒飲み』(1952年)が、このたび河出書房の「世界文学全集」におさめられ、イサク・ディネセンの『アフリカの日々』とともに一巻をなすかたちで刊行された。

土屋哲さんによる名訳。土屋先生が亡くなったため、今回はぼくが解説を書かせていただいた。いま読んでもほんとうにおもしろい、わくわくする、爆笑できる、奇怪な傑作だ。

帯のカマンテ・ガトゥラの絵が、またいい。

ちなみに土屋さんは日本におけるアフリカ文学研究の先駆者で、長らく明治で教えていた。セネガルの初代大統領で大詩人のサンゴールに明治大学が名誉博士号を授与したのも、それを機縁として明治大学図書館にアフリカ文庫ができたのも、氏の尽力による。

アフリカ文庫はじつにすぐれたコレクションなので、駿河台の図書館に行ったときには、ぜひ書庫に入ってみるといいと思います。いろんな発見がきっとあるから。

長く充実した一日

きょうはゼミのみんなとペドロ・コスタの『コロッサル・ユース』(Juventude em marcha 進みゆく若さ)を見に、イメージフォーラムへ。午前11時から、2時間半ばかりの強烈な映像体験だった。

http://jp.youtube.com/watch?v=GfCKm8ElQHo

ひとつひとつの場面の固定カメラの置き方が絶妙。驚き、につぐ驚き、につぐ驚き。ヴェントゥーラの背後にある物語は推測するしかないが、それが「わかるわからない」とは無関係に、強烈。

終了後、近くの老舗で名物オムライスを食べてから、アキバへ。

授業ではゲストが二人。中国からの留学生の于さんと札幌で古書店をいとなむ吉成くん。きょうは『武満徹対談選』(小沼純一編、ちくま学芸文庫)をめぐるディスカッションだったので、吉成くんには最後に(彼の先生でもある)詩人の吉増剛造さんのことをちょっと話してもらった。

吉成くん発行の『アフンルパル通信』掲載の吉増さんの手書き文字に、みんないい知れぬ衝撃を受けていた。

終わってからみんなでパブに。おもしろい話がたくさん聞けた。于さんの話からは、中国のいまの若者たちに対する日本のマンガの影響力の強さを実感。彼女のような人がどんどん入ってくれたら、DC系はほんとうに刺激にみちた場所になるだろう。

早速、今年から、中国、台湾、韓国の主要大学にも大学院案内のブロシュアを発送することにしたい。

Monday, 2 June 2008

「風の旅人」

6月1日発売の「風の旅人」32号に、連載エッセー「斜線の旅」の第17回として「桜、花、はじまり、小さな光」を書きました。

毎年、春になると氾濫する「桜写真」にまっこうから闘いを挑むような、新正卓さんのピンホール・カメラによる桜写真に触発されて綴った文章です。

「斜線の旅」連載も、いつのまにか17回。年6回ですから、次号で3年。もちろん、一冊の本にまとめるつもりですが、どんなかたちにしようか。ともあれ、これまでの歩みをまとめておきます。「風の旅人」16号(2005年)から。

1「フィジーの夕方」
2「湖とハリケーン」
3「ヌクアロファ」
4「最後の木の島」
5「オタゴ半島への旅」
6「タンガタ・フェヌア」
7「青森ノート」
8「見えないけれどそこにいる、かれら」
9「世界写真について」
10「ほら、まるで生きているみたいに死んでいる」
11「ここがもし聖地でなければどこが」
12「もしアメリカがなかったら、いまは」
13「モーテルと地図帳」
14「金沢で会う寒山、拾得」
15「島と森、鳥と果実」
16「その島へ、この海を越えて」
17「桜、花、はじまり、小さな光」

そしていまは次の号の作業中。おもしろいもので、雑誌連載では、「どうして自分がこんなことを書くのか」と思うような主題が浮上してきます。それはもちろん、そのつどのしめきり前後の苦闘のせいでもあり、編集者との対話のせいでもあり、まったくの運でもあります。

人は自分で文章を書いている気になるけれど、じつは「自分の力」なんて半分もないくらい。それがあるから、やはり雑誌という媒体はおもしろいし、広告なく運営している「風の旅人」というこの特異な雑誌に、前田英樹さん、酒井健さん、田口ランディさんらとともに連載をもたせていただいていることのふしぎさを、しばしば感じます。

この雑誌がつづくかぎり、この連載もつづけたい。つづけないかぎり、けっして出てこない何かが、世界のいたるところに隠されているのですから!

Sunday, 1 June 2008

アフリカ/カリブ

木曜からずっと慌ただしい。慌ただしいことを「泡立たしい」とわざとまちがえていうのもおもしろい。

木曜日は、昨年リバティアカデミーを一緒にやったコンゴ民主共和国出身の宗教人類学者ロジェ・ムンシさんが、法学部の中村和恵さんのゼミにゲスト講師として招かれたので、朝から夕方までつきあう。充実。アフリカの内戦や国境紛争から呪術にいたるまで、たっぷり。その上、ムンシさんの博士論文の主題である日本の隠れキリシタンについても、いろいろおもしろいお話をうかがうことができた。学生たちの反応もよかった。

ロジェに会うたび思うのが、あの広大なコンゴをかつて「私有」していたベルギー国王レオポルド2世のこと。そしていまもアフリカでのあらゆる内戦の背後にある、地下資源を狙う欧米諸国の影。

土曜日は大学院の学内選抜。ついで午後からはリバティアカデミー。そのまえにアカデミーコモンの新領域資料室に寄ると、あいかわらずがらんとしていて、飾り気もなく、ものさびしい。折角の空間、もう少し魅力的な場所に育てたいもの。ここでの自主ゼミ開催なども考えてみようか。

リバティアカデミーはレゲエ博士の鈴木慎一郎さんによるゾンビ論。さすがに丁寧な説明で、いろいろaha!と思うことがあった。民族植物学者ウェイド・デイヴィスのゾンビ研究によると、ゾンビはフグ毒による仮死状態を利用して作られる。それはいいのだが、結局は暗示によって「ああ、やられた、もうダメだ」と思う部分が決めてなのではないか。しかし自分が経験するのも恐いし。仮死状態から生還した私、とか。

ハイチの波がなぜか続く。

土曜の夜にトヨダヒトシの河原でのスライド上映会の予定だったが、雨天のため一週間順延。まだ予約してない人、ぜひどうぞ!