Monday 24 March 2008

『わがままなやつら』書評など

2月29日に発売されたエイミー・ベンダーの短編集『わがままなやつら』に対する反応が出はじめた。

まず、作家でラッパーのいとうせいこうさんのブログに、こんな言葉。引用します。

「小説では数日前に出たエイミー・ベンダーの新刊『わがままなやつら』が楽しみ。
 傑作『燃えるスカートの少女』を超えられるか。
 ちなみに、川上(未映子)さんの新しい短編「あなたたちの恋愛は悲惨」は、『文学界』の編集者によるとエイミー・ベンダーを意識して書かれたものだそうだ。
 うーん、面白いシフトをしてくるなあ、川上未映子。さすがだ。」

http://seikoito.ameblo.jp/

そして数日後の記述で、『わがままなやつら』が期待を裏切らなかった、といとうさん。こんなひとことで、訳者としては心から報われた思いになる。

本格的な書評の第1号は大竹昭子さん。紀伊國屋書店のサイト「書評空間」で。

http://booklog.kinokuniya.co.jp/ohtake/

大竹さんの文章はぼくの1、2年生むけ作文ゼミでも何度かお手本としてとりあげてきたが、旅のエッセーも書評もつねにストレートで核心をつき、爽快。トライアスリートみたいな鍛え抜かれた筋肉を感じさせる文章だ。今回の書評では

「ここが彼女の作品の特異な点なのだが、一見、冷ややかなタッチの中にチロチロと燃えているものがある。冷たさと熱の奇妙な同居が実現しているのだ。目を開けながら夢を見ているような、醒めつつトリップしているような、あやうくもエロチックなバランス感覚があって、絶望を知っている人の暖かさとでもいうべき、簡単には失われない人への信頼が、奇妙なストーリーを運んでいく船底を洗っている。それは懐疑の果てに訪れた愛であるだけに、読む者に深い安堵を与える。」

エイミーの作品にときどき感じられる、深い「非宗教的宗教寓話」のような感覚をみごとに突いた、至言だと思う。

書評に関しては、ぼくは取り上げてくれた方にお礼をいうこともしないし、自分が書いた書評に関してお礼をいわれるのも居心地が悪いと思っているから、ここでもやめておく。でも、「作品」のために心からよろこびたい気持ちは大きい。「作品」はいつも人間よりも大きい。作者よりも、もちろん訳者よりも、読者よりも。そういうものとして人々が自由に共有しうるものが「作品」なのだ。