Thursday 27 September 2007

銀座への旅、手の旅

きょうは授業を終えてから銀座に。年に何度もこない街だが、ここはきらいじゃない。すいみんぶそくでふらふらだったため、まずエスプレッソを一杯。それから7丁目のニコンサロンで、こないだから話題にしている石川直樹さんの写真展『New Dimension』を見る。

先史時代の岩石絵画をモチーフにした展覧会。オーストラリアのノーザンテリトリー、パタゴニア、ノルウェイ、アルジェリア、北海道、人類史の驚くべき一致が、まざまざと明らかになる。狩猟。手の仕事。その痕跡。手の痕跡。圧巻だ。といってもぼくの悪い癖で、主題よりもいらない細部ばかりを見てしまう。それで、いちばん気に入ったのは、パタゴニアの犬。眉の上の傷が痛々しい! ともあれ満足して次の目的地に向かう。

1丁目のギャラリーQ。今年のヴェネツィア・ビエンナーレの日本パビリオンの展示、岡部昌生さんのフロッタージュ作品だ。コミッショナーは、写真家・批評家の港千尋さん。現場のビデオを見ながら彼の説明を聞き、しばし岡部さんの手仕事のすさまじいばかりの力の波を受けてたたずむ。

ヴェネツィアの街を、こすりまくる。肘から動かす大きなストロークで鉛筆をこすり、紙にローマ時代以後の歴史の痕跡を浮かび上がらせる。その着想もすごいが、そして30年続けてきた持続力もすごいが、できあがった作品のこのモノとしての力は、筆舌につくしがたい。以下、参考サイト。

http://www.tokyoartbeat.com/tablog/entries.ja/2007/09/is-there-a-future-for-our-past.html

そして思ったのだが、この手の動きは絶対に人の模倣を誘発する! 岡部さんはワークショップで、小学生からお年寄りまで、あらゆる人々をまきこんでヴェネツィアの街路をこすった。ここには先史時代以来の、ヒトの本性に直接ふれるものがある。パビリオンのビデオを見ると、その圧倒的な規模と存在感がよくわかった。

先史時代の「ネガティヴハンド」(岩石に残された手の痕)のことをはじめて聞いたのは、港さんからだった。もうずいぶんむかしのこと、前世紀の話。その痕跡めぐりは石川さんに継承されている。そしてネガティヴハンドに表れているような、太古の人々が「手」に対して持っていた魔術的関心が、岡部さんの作業ぶりを見ているとよみがえってくる。人が人である限り、われわれのだれも逃れようがない事実だ。

そこからニューヨークの画商である友人も加えて、天龍で鍋貼(焼き餃子)を食べる。でかい、しかも一皿に8個! この餃子の折りも手の仕事。手にとりつかれたような一日の、銀座への旅だった。