Sunday, 5 April 2009

いよいよ新学期

4日、土曜日、大学院ガイダンス。DC系という、理工・人文・芸術の融合コースにふさわしい、まったくバラバラの新入生が集まって、さあ、これからの一年が楽しみ。

今年はとにかく、みんなに熱が出るくらい考えてもらうこと、脳内のいろんな情報のピースが化学反応を起こしたみたいに発熱しやがて沸騰するまでよくかきまぜること、がテーマか。

ビジネス・ミーティングのあと、2年生と1年生の顔合わせ。運営は2年生におまかせ。ぼくのゼミの新入生では、于さんがしっかりしたダンナさんを紹介してくれて、うれしかった。黄さんには日本各地への旅の話と中国各地のことを聞く。佐藤くんには「明治理工だからオタク」という論理を聞いて、はあ、なるほど。原くんはテレキャスターを買ったばかりとのことで、こんどスタジオでジャムセッションなど。ケン・ローは、あいかわらず無口だった。

帰り道、駅で会った数名と、喜多見の蕎麦屋に寄る。蕎麦もおいしいが、茄子とか、ねぎサラダとか、卵焼きとか、そういったものが旨い。さあ、来週から(大学院は再来週から)授業だ。

ゼミについては、個別のリーディング・リスト作成作業を中心にしようと決意。たとえば36冊として

(1)自分の考え方、感じ方、判断力の核をなす本を12冊。
(2)自分が専門と呼びたい分野(「デザイン」でも「写真」でも「ファッション」でも)の本を12冊。
(3)分野を問わず「現代性」を主題とする本を12冊。

これで1冊あたり200字くらいの短いコメント(長くてはいけない)をつければ、だいたい20枚の長さのペーパー代わりになる。

後期には、この36冊をいわば「雲」として捉え、その形状と色彩を描写することを課す。数冊は別の本と入れ替えてもいい。

それに加えて、キットラーを読もうかとも思うが、これはみんなと相談してのこと。

またこの36冊のリストを提出することに関して、「外部ゼミ生」制度を作ろうかとも、電車の中で思いつく。つまり、別に学生でなくてもなんでもいいから、希望する人は今学期、学生たちと並行して、リスト作成を進めてもらう。その上で、7月にでも一日がかりのオープン・ゼミを開催し、それには参加してもらう。おもしろいかも。できれば高校生の参加もうながしたいところだ。

こないだから都立高校で教える友人と話しているのだが、「大学生」のレベルを飛ばして、高校生と大学院生のあいだで協同の回路を作ると、なかなか双方にとって生産的なんじゃないだろうか。

Thursday, 2 April 2009

『知恵の樹』、『独学の精神』

マトゥラーナとバレーラ『知恵の樹』(ちくま学芸文庫)の増刷が決まった。これで6刷、累計1万1000部。

朝日出版社からのもとの大判の訳本が1987年(装幀は鈴木成一さん)、文庫に入ったのが1997年。ぼくの20代の仕事が、長いあいだ、少しずつ読みつがれているのがうれしい。

今年は学部1、2年生むけの総合文化ゼミナールでも、ひさびさにとりあげる。DC系の大学院生のみんなにとっては、この本とグレゴリー・ベイトソン『精神と自然』(佐藤良明訳)は必読。というか、もう何年も前から、大学院生、学部生、それぞれにとっての推薦図書リストをそれぞれ100冊くらいで作ろうと思っているのだが、なかなか果たせなくてごめん。

もっともすべての独学者は自分が読む本、読まない本を自分で決めるだろうし、独学以外の学び方はない。きょう勧めたいのは前田英樹さんの新著『独学の精神』(ちくま新書)。「皆でせいぜい米を食べようではないか」という呼びかけにいたる道に、深い衝撃を受ける。米を食べることと独学の関係? それがわかるためには、この本を自分で読むしかない。早わかりを求めてもダメ。

カタリココ

大竹昭子さんから、新しいカタリココのお知らせが届いた。

カタリココとは、本について語り合い、朗読をする場。ごく少人数で、小さな空間で、著者と読者がふれあい言葉を交わすことのできる、非常におもしろい試みだ。

冬にはぼくもダーシェンカに行ったけど、またおりを見て、ぜひ行きたい。

(以下、ペースト)


■カフェ・カタリココ
日時:2009年4月26日(日)15:00〜16:00(開場14:00)
場所:四谷三丁目チェコバー・だあしゑんか
料金:500円+オーダー
電話:03-5269-6151
http://bardasenka.blog34.fc2.com/blog-category-12.html

DMに12日と書きましたが、
都合により4月26日に変更いたしました。
すみませんが、お間違えないようによろしくお願いいたします。
内容は、その日の少し前に発売になる
拙書『随時見学可』(みすず書房)を朗読いたします。
随時見学可、みすず書房とくると、一体どんな種類の本なのか!?
と首を傾げられる方も多いと思いますが、都市を舞台にした短編集で、
現実世界が少しずつ虚構に傾いていく構成になっています。


*26日以前に他にふたつイベントがあります。
それについてもついでにご案内させてください。


■福岡伸一×大竹昭子トークショー
日時:2009年4月10日(金)19:00〜20:30 
場所:青山ブックセンター本店 
料金:800円
電話:03-5485-5511
http://www.aoyamabc.co.jp/10/10_200904/20090410fuku.html

福岡さんの新刊『動的平衡』(木楽舎)
の刊行を記念してのイベントですが、
モンガイカンとしてお伺いしたいことがたくさんあり、
とても楽しみにしています。


■第31回西荻ブックマーク「すごい写真」を語る
日時:2009年4月19日(日)17:00〜19:00
場所:西荻窪スタジオマーレ
料金:1500円
電話:03-5382-1587(音羽館)
http://s1.shard.jp/nishiogi/nbm2.htm

こちらは、『この写真がすごい』(朝日出版)で取り上げた写真と、
来年度版の候補作をスライド上映しながら、
写真のおもしろさ、不思議さ、奇妙さなどを探るソロのトークショーです。
写真に興味はあるけれど、いまひとつとっかりがない、
と思っている方はぜひどうぞ!

1839とは?

学生時代からの友人、港千尋の個展が、この週末、台北ではじまる。新しくできた写真中心のギャラリー、みたい。そのオープニングに行きたかったのだが、あいにく4日は大学院ガイダンスで、それもかなわず。

展出主題:第三自然 - 痕跡.記憶.無意識 (The Third Nature from Trace to Memory)
藝術家:港千尋 (Chihiro Minato) 攝影及活版文字 個展

展覽期間:2009/4/3 (五) ~ 5/7 (四)
開幕茶會:2009/4/3 (五) 19:30
簽書會:2009/4/4 (六) 14:00~14:30
座談會:2009/4/4 (六) 14:30~16:30

1839當代藝廊:
(10696) 台北市大安區延吉街120號地下樓 (請由126巷進入)

藍線捷運:
國父紀念館站2號出口 (右邊第2條巷口直行至延吉街)
忠孝敦化站3號出口 (往明耀百貨直行至西雅圖右轉延吉街)
公車站名:阿波羅大廈 (忠孝東路4段)


1月はあまりに時間がなかったので、台北市内も一瞥にとどまった。それでも2泊3日程度でもずいぶんいろんなことはできるもので、台湾はこれからも何度でも行きたい。政治大学との交流も、さらに進めたいし。

そこで問題。ギャラリーの名前になっている「1839」とは? あ、これは期末試験の問題にしようか。

Wednesday, 1 April 2009

Genau!

よく知っているつもりの本でも、いい本は手に取るたび何らかの発見がある。

というか、そのつど自分が行き当たっている問題と同期しないかぎり、本当はどれだけ何を読んでも何にもわからないまま過ぎているのだろう。

このところ、旅行記の書き方についてかなり深刻に考えざるをえなかったので、ミシェル・レリスの短い文章のこんな一節に再会し、ほんとにそうだと思った。

以下、引用。

或る地方の本質的特徴をあらわすためには、詩と、行き当たりばったりのような語り口と、自然主義的な意図のない、全く自由なデッサンのほうが、旅行記の専門家たちの大方に共通する描写的な方法より明らかに有効だ。旅行記はたしかに魅力的な分野にはちがいないが、その外からの見方という性格(人々のえてして陥りやすい話の歪曲は論外として)ゆえに、多くの場合、人をあざむくものとなるのである。(岡谷公二編訳『デュシャン ミロ マッソン ラム』)

その流れで、『植草甚一日記』を読んでいると、その手書きの文字のあまりの見事さに、70年代半ばの高校生のころとおなじく感動。植草さんの行き当たりばったりなニューヨーク日記ほど、驚くべき喚起力をもった記述は少ない。

その流れで、ポール・ストランドの写真集を見ていると、これがまたじつにいい。彼の撮ったイタリア人やメキシコ人は、すべてこの世のものとは思えない存在たちだ(まあ、写っている人々は確実にすべて全員死者となっているだろうが、そういうことじゃなくて)。そして人物だけでなく、植物の魅力もまた見る目に刺さってくる。

と、こんな風に充実した時を過ごしているかぎり、たったいま書くべき原稿がまったくできあがらないのはどういうことだろう。

4月1日は、われわれのお正月。あけましておめでとう。今年度こそ、想像もつかないほどすごい年にしたいものだ。そのためには、まず、修士2年になった宇野澤くんとパコに、画期的な修士論文を仕上げてもらわなくては。そして修士1年に入ってきた、于さん、黄さん、佐藤くん、原くんには、これまでの自分とは手を切って、大変貌をはたす一年にしてもらいたい。

彼女の絵を見ればわかること

そう、たしかに絵を見ただけでわかることなのだが、ジョージア・オキーフも、どうやら歩くことにとりつかれた人だったようだ。改めて、思った。

ローリー・ライルの伝記『ジョージア・オキーフ』の訳者あとがきで、道下匡子さんが書いているオキーフ会見記の中のジョージアの発言から。

「ヴァージニアで寮に入っていた時、女生徒は独りで長い散歩をすることは禁止されていました。でも私は毎朝、四時に起き、日が昇る前に、十二マイルも歩いたものです。」

マーシャ・ベラヴァンス=ジョンソンの小冊子 Georgia O'Keeffe in New Mexico は、ジョージアの西テキサスでの教師時代のことを記している。

Considered an eccentric, she frequently dressed in black and loved walking on the seemingly endless prairie stright into the morning or nighttime sky.

12マイルといえば20キロ弱。せめて毎日、これくらいの距離を歩くことを中心に、生活を組み立てたい。アイリッシュ・ウルフハウンドかスコッティッシュ・ディアハウンドを連れて! ヒースの荒野が無理なら、それがたとえアスファルトの砂漠とコンクリートの密林であっても。

日本でいちばんやる気のある大学

若き友人、大洞くんのブログで、彼が迎えた放送大学の卒業式の模様が報告されている。

http://hobo.no-blog.jp/train/

これにはクラッときた。特に、グランドスラム! といってもタイガー・ウッズのことじゃないよ。以下、引用。

「そのなかで今年は5名のかたがたが6度目の卒業式を迎え、グランドスラムを達成した。グランドスラムとは放送大学教養学部に用意されている6つの専攻、「生活と福祉」「発達と教育」「社会と経済」「産業と技術」「人間の探究」「自然の理解」(来年度からは再編成される)をすべて修了することで、最短でも14年の歳月を要する。今回この離れ業をなしとげた方のうち、最高齢はなんと81歳! まさに「満身これ学究」であられる。」

いわば、学士入学をくりかえし、文理のほぼ全分野を掌中にした人たち。恐るべし、このやる気。

放送大学は、まちがいなく日本でもっともやる気のある大学だ。そこには「やる気のない学生」がいない。いやいや勉強させられ、いやいや大学に進学し、いやいや授業に出て、いやいや就職し、いやいや会社に通いながら日々をむだにする、といったコースとは、まったく無縁。学びたい、学びたい! 何の役に立とうが立つまいが、知りたい、考えたい! そうでない大学生がゾロゾロいるようでは、社会が狂ってくるのもあたりまえ。(もちろん、大学生の多くは、自分の興味にしたがってやる気を発揮し、知りたいと思うことには真剣で、けっして打算づくではない。まともな判断力をもっている。でも、そうではない学生も、実際とても看過できない数がいる。)

毎年3月、週刊誌がこぞって「東大合格者ランキング」とかの特集号を出す。ぼくらが受験生だった30数年前にも、それはあった。正気の沙汰とは思えないが、いまだにそれが続いている。21世紀は、あのころ未来だった。未来はどこに行った、といいたい。良識ある編集者に、くだらないことはやめろ、と促したい。

なかには普通のランキングではつまらないとでも思ったのか、わざわざ「女子」限定の合格者ランキングを売り物にする大手新聞社系週刊誌も。作り手の志の低さが、しみじみと思われる。どうでもいいだろう、そんなこと。

そんな狂ったマスコミの表面に出てこないところで、真剣に学ぼうとする人たちは、もちろん今日も「冷静な熱狂」をもって自分の道をゆく。まともな人は、もちろん多いんだ。それをわざわざ見えなくするやつらは、いったい誰だ?