Monday 16 July 2018

Voices Are Flowers そして声の花は?

7月14日(土)、東大本郷の法文2号館大教室で、多言語詩と音楽の夕べ Voices Are Flowers が開催されました。17時開演、19時40分終演。

まず主催者でありプログラム構成をぼくに全面的にまかせてくれた沼野充義さんのご挨拶。そして暗転、声の饗宴がはじまりました。

最初はぼくの詩Transit Bluesから。5月にドイツのトリーア大学での朗読会のために書いたものです。ついで永方佑樹さんの映像詩とデジタル感覚にあふれる実験的作品。永方さんとジョーダン・スミスさんの共同制作詩。そしてスラム・ポエトリーのシーンでも活躍するジョーダンさん単独の長い暗誦パフォーマンスにも、驚嘆しました。詩は、ほんとはこんなふうに、頭の中に入っていなくちゃいけない。つづくイルマ・オスノさんのケチュア語とスペイン語による作品と歌は、意味はぜんぜんわからないけれど、電撃的な迫力をもって聴衆を釘付けにしました。

5分間の休憩ののち、今回のハーヴァード大学世界文学研究所夏期セミナーに参加している大学院生3名の自作(中国語と英語)。ついで今回の映像記録担当でもある東大大学院生のソン・ヘジョンさんの韓国語詩。そして現在の日本でもっとも刺激的な映像人類学者・川瀬慈さんによるアムハラ語の口承詩。彼は、ぼくがまさになりたかったタイプの人類学者で、ブルース歌手・ギタリストでもあり、僧侶でもあります。わずかな時間にその片鱗をすべて見せてくれました。それから日本では数少ないバスク文学者・金子奈美さんがキルメン・ウリベの詩をバスク語と日本語訳で読み、ぼくは頼まれてその英訳を読みました。

ステージは一気にアラビア語世界に変わります。シリアの詩人で古事記や石川啄木『一握の砂』のアラビア語訳者でもあるモハマド・オダイマさんの軍事教練を主題にしたユーモラスな詩、モロッコの外交官詩人アブデルカデル・ジャムーシーさんの洗練された詩と俳句には、ブルターニュからやってきたミュージシャン、ヤン・ピタールさんがウードによる即興の伴奏を。これがあまりに見事で、言葉と歌の境界線を自由に引き直してくれました。

そして最後に、ヤンさんと一緒にKyという名の世界音楽ユニットをやっているサックス奏者・歌手の仲野麻紀さんの自作俳句を織り込んだ演奏。いつも以上に情感をたたえたお二人のあまりにすばらしい演奏に、160名ほどの聴衆はまるで夏の夜の夢を見ているような心地に誘われました。Ky の世界をまだ知らない人、まずかれらのCDを聴いてみてください。そして毎年、春と秋に企画されるかれらの日本ツアーを、どこかでぜひ体験してください。音楽が世界の現在をどのように見ているか、そのひとつの手応えある実例にふれることができます。

こうして多言語詩イベントとしては、まずまず理想的なものになったと思います。このままのかたちで世界のどこに持っていっても、理解/非理解を超えて受け入れられるものでしょう。この忘れがたい夕べの実現にあたって、参加してくれたすべての詩人と音楽家の友人たち、裏方を引き受けてくれた東大・現代文芸論の大学院生とスタッフのみなさん、そして総合ディレクターともいうべき沼野さんに、心からお礼を申し上げます。

ありがとうございました。