2014年11月30日日曜日

今年も作品展を

毎年、学生たちとの作品展(+関連図書の展示)を開催しています。明治大学生田図書館のギャラリー・ゼロで。今年もやります。12月3日(水)より。今年のテーマは「水」。ぜひいらしてください。ぼくは9枚の写真を展示します。以下、作品タイトルと作者によるコメントを。

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川、湖、ダム湖、海へ
管啓次郎

 ある年、早春の奥入瀬渓谷を走った。葉のない樹林を明るい陽射しがみたし、そこは光の国だった。渓流は鮮烈。勢い良くほとばしる水が撥ね、光が撥ね、心を削った。手をふれると冷たい水だ。どんな命が隠れているのか。どんな時間を流しているのか。
 そこから上流にむかうと、川の始まりには湖があった。十和田湖。大きく深い水瓶のようにして火口に雪解け水が溜まり、湖になったのだった。ミズウミというが、ここはウミと変らない。北風が雲を飛ばし、どんよりとした灰色の層からときおり光と雨が降ってくる。波が立つ。しぶきが飛ぶ。
 
 別の年、沖縄本島の北部をひとりで走ってみた。福地(ふくじ)ダムは貯水目的でアメリカ軍が建造した石積みのダムで、それはまるで知らない土地の古代からやってきたピラミッドのようにも見えた。ダム湖はしずかだ。人工物ではあるけれど、できてしまえばダム湖もみずうみ。水面にはさびしい心と歴史が写っている。
 そのまま北上し、この島ではこれ以上行けないところにたどり着いた。辺戸岬、ここが沖縄本島の北端だ。海がどれほどの年月打ち寄せてきたのか、波の造形力をこれほど感じさせる場所はない。岩に無数の穴が穿たれている。北の水平線上に与論島が浮かんでいる(浮かんではいないけれど)。

 水はどこまでめぐるのだろう、水はいつまであるのだろう。そもそも、いつどうして、地球には水ができたのか。なんの答えも知らぬまま、水をたどっていつも歩いている、走っている。流れる水のかたわらで、ぼくの体にも水が流れている。

「動物のいのち」終了

29日(土)、明治大学中野キャンパスホールでのシンポジウム『動物のいのち』を開催しました。

第1部として、12名のアーティスト、研究者による、ひとり15分のショートプレゼンテーション。ついで第2部は、ディスカッサント2名を加えて、全員によるパネルディスカッション。驚くべき言葉が次々と飛び出す、深い意味を帯び沈黙に裏付けられた場が生じました。

ぼくにとっては、これまでの人生で自分が企画した、もっとも重要なイヴェントとなりました。

発表者、オーディエンスのみなさま、ほんとうにありがとうございました。人間社会をどうにかしようと思ったら、動物との関係を見つめ直すほかありません。次の動きを、早くも考えています。今回来られなかったみなさん、次回はぜひどうぞ。

赤阪友昭さん、片桐功敦さん、木村友祐さん、佐川光晴さん、佐々木愛さん、高山明さん、橋本雅也さん、服部文祥さん、纐纈あやさん、古川日出男さん、分藤大翼さん、山口未花子さん、石倉敏明さん、波戸岡景太さん、ほんとうにありがとうございました。みなさんのそれぞれの道が、また未来のどこかで交差することを、心からお祈りいたします。

2014年11月28日金曜日

「週刊朝日」12月5日号

「週刊図書館」のページに、マルグリット・デュラス『ヒロシマ・モナムール』(工藤庸子訳、河出書房新社)の書評を書きました。

「ヌヴェールという地名に英語のnever が複数形で書きこまれていることを、ふと思った。けっして帰って行けない土地、時間。けっしてくりかえしてはならない悲劇、行為」


2014年11月26日水曜日

沖縄で

連休、沖縄でふたつの学会に参加しました。いずれも会場は名護市の名桜大学。ゲイリー・スナイダー研究者の山里勝己さんが学長を務めている、小高い丘の上のきれいなキャンパスです。

まずISLE-EA (International Symposium on Literature and the Environment in East Asia)。韓国、台湾、日本をはじめとする東アジアの環境文学研究者が隔年で集まる、重要な国際シンポジウムです。今年のテーマは "Unsettling Boundaries: Nature, Technology, Art"でした。上記の国のみならず、カナダ、アメリカ、オーストラリアなどからも参加者があり、充実したパネルがいくつも組まれました。

ぼくは初日に基調講演。"On the Re-wilding Coast: Reflections after 11 March, 2011" と題して、社会と自然の関係を全面的に問い直す機会となった東日本大震災と原発事故後の状況について話しました。畠山直哉さん、赤阪友昭さん、片桐功敦さんから、すばらしい写真をお借りして、ぼく自身が撮影した動画や写真とともに、東北の土地で考えてきたことを伝えようと試みました。

二日目の基調講演はアメリカで活躍するドイツ人批評家でUCLA教授のUrsula Heiseさん。エコクリティシズムをリードする、第一人者です。

思えば1997年、メキシコのプエルト・バジャルタで開催されたACLA(アメリカ比較文学会) で、エコクリティシズムをめぐるはじめてのセッションが組まれたのでした。組織したのはパトリック・マーフィー。上記のハイザ、動物をめぐる理論で知られるキャリー・ウルフ、ぼく、みんなこの分野にとりくみはじめたばかりのころでした。ぼくがゲイリー・スナイダーとヤキ族のエスノポエティクスについて発表したのは、このときでした。

シンポジウムが終わり、日曜日の午後は辺野古へのフィールド・トリップ。あまりに美しい海。基地の建設はとりかえしのつかない破壊をもたらしますが、この海岸で改めて、アメリカと日本との関係、ヤマトと沖縄の関係を、考えないわけにはいきませんでした。すぐお隣の台湾、韓国のみなさんにも、この海の光が、強い印象を与えたようです。

海外からのみなさんと別れて、月曜日はASLE-JAPAN (文学・環境学会)の第20回大会。創立20年を迎えて、大きな転換期にさしかかっていることを再確認しました。まず文学研究を、さらに広い環境人文学、そしてアートへと開いてゆくこと。そして、ともすれば英語圏研究者主体になりがちな研究共同体に、日本文学、他の外国語文学のみなさんの参加を促し、アジア・太平洋圏や北欧(環境人文学の先進地域です)との交流を作り出すこと。

ぼくとしては、写真家、映像作家、造形作家、音楽家、舞踊家、いろいろなかたちで表現にとりくむ人たちにもぜひ参加していただき、文学・人文学研究との接合を試みていきたいと考えています。

興味がある方は、「学会」という名前を敬遠せずに、ぜひお気軽にご参加ください。

2014年11月19日水曜日

「新しい野生」のために

写真家の赤阪友昭さんらと、なんとか実現したいねと相談しているのが、オランダ映画 De Nieuwe Wildernis (The New Wilderness)の上映。今年のレンブラント賞(オランダの最高の映画賞)受賞作で、12週間で70万人が見たという大ヒット作です。

http://www.thenewwilderness.com/

アムステルダム近郊の自然保護区、オストファーデルスプラッセンを舞台とするドキュメンタリー。あの大都市のすぐそばにこんな野生動物の地帯があるなんて、と心から驚きます。

その核心をひとことでいえば、re-wilding つまり再野生化。日本列島も、その方向に進路を修正してゆかないかぎり、未来はありません。

土地は人だけのものではない。すべての鳥獣虫魚と分かち合うことを真剣に考えれば、まずまず、まちがいなく土地に生きてゆけるはずです。過去百年ほどのやり方を改めて。

この作品を買いつけてくれる配給会社、ありませんか? 公開まで、なんでも協力します。赤阪さんはすでに現地取材を行なっているし、華道家の片桐功敦さんもそう。ぼくも来春には行ってみるつもりです。

そしてそんな場所を、地帯を、日本列島に作り出すことを、一緒に考えませんか?

いかんせんこのすばらしい作品、オランダ語版しかありません。ぼくも全体を見ましたが、せめて英語字幕がないと、話の内容はほとんどわからず。オランダ語が得意な人、これを見て、ぜひ教えてください。よろしくお願いします!

2014年11月10日月曜日

梨木香歩『ピスタチオ』

梨木香歩さんの『ピスタチオ』がちくま文庫に。ぼくは解説を書きました。

水とアフリカをめぐる壮大な小説。そしてその全体を「物語論」として読むこともできます。そのあたりを。読んでみてください。

「旅きり」完結!

2年間にわたって連載してきた「すばる」の巻頭グラビア「旅ときりぎりす」、12月号の「アンカレッジ」をもって完結しました。ご愛読ありがとうございました。来年の秋くらいに単行本としてまとめたいと思っています。

旅のスナップ写真と短い文章だけ。このスタイルはやっていて楽しく、いくらでも続けられそうな気もしたのですが、次の旅はもっと緻密なものに。

またどこかで!

2014年11月9日日曜日

午前3時の川

金曜日、下北沢B&Bでの赤阪友昭・小島ケイタニーラブのイベント。前半は主に赤阪さんが月の話をし、ケイタニーが歌い、後半はアラスカの話になって、ぼくも参加しました。

開始前に「詩の朗読を」といわれ、何ももっていなかったので隣のTag Cafeに行ってあわてて書いたのが次の詩。でも現実の映像が頭の中にあってそれをなぞっただけですから、あっというまに書けました。途中でケイタニーのギターの伴奏が入り、そのまま「フォークダンス」の合唱でエンディング。楽しい晩でした。またいつかアラスカに行きたい。

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「午前3時の川」


明け方にきみはやってきた
6月の森の夜明けだ
午前3時にやって来たんだ
川が海に流れ出るその場所へ
川だって? そう冷たい水の川だ
黒い岩の岸辺にむかって
激しく水が流れ落ちる
しびれるほど冷たい水だ
なんというさわやかな場所だろう
しぶきを浴びながらぼくは待った
岩のようにうずくまって
本当には暗くならない夜の底を
鮭たちが途切れめなく遡ってゆく
水よりも多い魚の群れ、川底が見えない
流れ落ちる水よりも速く遡る鮭たちの肉だ
ウィスキーよりも濃い色をしたゆたかな鉄の水が
森のあらゆる気配を溶かしている
ぼくは待っていた
長いあいだ待っていた
そこにきみが来たんだ
何も気にせず、何も恐れず
流れの対岸に森からふと現われて
そしてきみの漁がはじまった
川岸の黒い岩に足場をたしかめて
若いお尻を高くあげて顔を水につっこむ
ほら!ほら!大きな鮭をくわえた
身を強くふるわせる鮭をたちまち水に落とした
でもきみは挫けない、鮭の流れは途切れない
ほら!ほら!また鮭をくわえた
尾を強く打つ鮭をきみはしっかり嚙み
両腕でかかえこんで大きな魚を捕まえる
それからのっそり森に入ってゆく
濃い森陰で食べるために
その赤い肉を食べるために
さわやかな肉を食べるために
ぼくは知っている、きみはその頭と
ぎっしりと腹につまったつぶやかな卵しか食べないことを
きっかり7分後、きみはまた出てきて
また褐色の冷たい流れに頭をつっこむ
鮭たちのパニック、噴水のように跳ねる魚たち
きみはのんびりと夢中になってきみの食事を準備する
ブラック・ベア、黒熊、若い娘、黒い毛の
森の娘、アラスカの川の、
遡上する鮭たちを捕えて
その骨を森に返す
それがきみの食事
それがきみの仕事
ほら、空が明るくなった
ほら、森が目を覚ます
きみの食事の贅沢な残り物を狙って
鷲たちが空を舞う
からすとかもめがじっと待つ
アラスカの朝の森だ
森と海のあいだ
午前3時の川